15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/02(日) 22:36:26.72 ID:JoEqz7my0
今日は午前だけでレッスンは終わり。あの人は事務所には居なかった。
別のアイドルの子と仕事で遠出しているらしい。
ホワイトボードにある文字を見ると、あの人の予定はその通り。まゆの今日の予定は午前のレッスン以外は真っ白。
……他のアイドルの子も仕事やレッスンが無い時でも事務所に居るから、お話すれば暇な事もない。
ただ、他のみんなと会話しているとチクリチクリと胸が痛くなる。
そして、ある1人の子に目を向けた時、気づいてしまう。この子はあの人のことが好きなんだと。
顔をちょっと赤らめながら話すその様は……まゆと同じ、恋する乙女。
好きじゃないと口では言ってるけど、そんな姿見てしまったらただの照れ隠しにしか見えない。
確かに、あの人が好きそうなかわいい子。
そんな考えが出た瞬間、気づきたくないことに気づいてしまった。
まゆはあの人が好きだけど、あの人はまゆの事が本当に好きなんだろうか。
好きじゃないとしても、振り向かせる努力は怠りたくないけど、嫌いとか思われたらなんて思うと……
もし……あの人に言われたら、まゆはきっと耐えれないと思う。
もしもって事なのに、やけに現実味があって体が震える。そうなるかもしれないと言う考えが、震えを強くさせる。
まゆが思う未来は決してそんな事にはならないと、そう信じながら……まゆはあの人の帰りを待った。
日も暮れて、みんな自宅や寮に帰っていく。あの人はそろそろ戻ってくるはず。
アイドルの子は殆ど見えなくなり、日課になりそうなぐらいやっている事務所の掃除をしていると、とうとうあの人が戻ってきた。
彼と一緒に仕事に行ってたはずの子は、見当たらない。そのまま家に送ったのだろうか、まゆにとっては好都合だけど。
「おかえりなさい」
まるで夫の帰りを待つような妻の気分が半分。
あの時からずっと続いてる寒気で震えて怖い気持ちが半分。
「あれ、まゆちゃんこんな時間まで……あ、そっか。コレがあったね、返さないと」
彼はまゆを見ると、すぐに分かってくれた。
取り出すのは、結び直した跡がある風呂敷に包まれた弁当。
「ど、どうでした?」
「本当にまゆちゃんって料理上手なんだね。凄く美味しかった」
……まゆの弁当を、美味しいって言ってくれた。たまらなく嬉しい。
ずっと続いていた寒気は、この瞬間にどこかへ行ってしまった。
「だから……あ、あのさ」
「何ですかぁ?」
「また、まゆちゃんが良かったらだけどさ……お弁当作ってきてくれると俺も嬉しいかな、って……ダメかな?」
頭を掻いて、わざとらしく目を逸らしながらそう言う彼。そんな彼の表情はなんとも言えない表情。
けれど、まゆはそんな事気にする余裕は無かった。
何故なら……この言葉は、遠まわしに弁当を作ってきて欲しいという事なのだろう。
それを理解した瞬間に、まゆの心は幸せの一色に染まっていたから。
「勿論、いいですよ♪」
……それから、2人分の弁当を作ることが日課になった。
同時に、まゆの一番の幸せが塗り替えられたのは、言うまでもない事だと思う。
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