2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/30(木) 00:26:42.58 ID:9mq4SAX+0
16歳になる年、まゆはモデルの撮影をしていた。
事務所にも入って、正式なモデルとしてのきちんとした仕事。
続けていくうちにそれは既に日常の一環となって、撮影場所やカメラマンさん、スタッフの皆さん。
色んな人や、物が、見慣れたもので溢れていた。
変化があるとすれば、たまに朝起きて作った料理を差し入れすると凄く喜ばれたり、逆にお菓子の差し入れを貰ったり。
そんな日々が続く、そんな毎日。飽きていたなんて、思ってもない。
ただ……何かが足りなかったんだと思う。
その何かが気づけていなかっただけで、ただ……それだけで。
同じ年のある日、その日は丁度梅雨が始まる前の頃。
まゆが今までの生活を振り返って『何も無い日々だった』と思えるようになった日。
その日はいつもの撮影場所じゃなくて野外での撮影だった。
しかも、アイドルと一緒の合同の撮影らしい。
どんな子が来るんだろう、と少しだけワクワクしいたら、撮影場所に一足早く着いてしまった。
それでもスタッフさんは相変わらず全員揃っていて、凄いなぁって思ってると、見知らぬ男性が1人スタッフさん達の中に紛れ込んでいた。
誰だろうと思って近づいて、ふと目が向き合う。
「あ……やぁ、こんにちは。君がまゆちゃん?」
「は、はい。そうですけど……」
彼は私の事を知っているらしい。
私は彼をどう呼んでいいか分からず、言葉が続かなかったけれど、彼はすぐに慌てた様子で名刺を差し出してきた。
「私は遠くから来たこういう者で……って、硬苦しいかな? ともかく、アイドルのプロデューサーをやってるんだ」
第一印象は気さくそうな雰囲気。
返せる名刺は無いけれど、会釈して名刺を見て、大事に懐にしまった。
「今日だけだけど、よろしくね。まゆちゃん」
顔を上げると、彼は満面の笑みでそう言って……
その笑顔を見て、まゆの胸の中で何かが弾けた。
突如、胸の奥底に襲いかかってくるこの緊張感。
さっき、はっきりと音が聞こえた……そして、回らない頭で考えてすぐに分かった。
これはきっと、恋に落ちた音……まゆは、この人に一目惚れしちゃったんだと。
その音を聞いてから、今日はあの人を見ると胸がドキドキするような気がする。
よく分からないけど、ちょっとだけ息が止まりそうになる。
……間違いない、これが『恋』なんだと。
まゆが今まで一度も経験したことの無かった事。
感じたことのなかったこの感情を抑えようなんて、ありえない。
そして、1つの思いで頭が一杯になる。
もっとあの人の近くに居たい。
こんな離れた場所じゃなくて、もっと近くで。
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