過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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14: ◆2cupU1gSNo
2013/06/19(水) 19:49:24.41 ID:h4wqzmLN0
俺と里志は顔を合わせて沈黙して、しかし何も口には出さなかった。
二人で定位置の椅子に座り、鞄の中に片付けた文庫本を手に取った。
帰宅にはまだ早い時間だ。
千反田が戻って来る可能性だってまだ残されている。
そうである以上、俺たちはまだ部室に残っているべきなのだ。
俺は小さく溜息をついてから文庫本のページを開いた。
さて、続きはどこからだったか。
十分後、千反田は部室に戻って来た。
若干顔の青さが消えているのは何よりだったが、
代わりに千反田は俺と里志に新たな疑問を与えてすぐに部室から去った。
「急に飛び出してごめんなさい。
でも、突然だけど急用ができたので、私、先に帰りますね。
あ、折木さん。
これ借りていた本です、ありがとうございました。
それでは、さようなら」
それが部室から去る前、文庫本を俺に返しながら言った千反田の言葉だ。
釈然としない。
ありとあらゆる意味で釈然としない。
そう言った千反田の表情、仕種、言葉遣い、全てに違和感があった。
一つ一つに文句を付けられるくらいに違和感だらけだった。
そして何より違和感があったのは、千反田に返された文庫本だった。
「何だこれは」
思わずそんな陳腐な言葉を吐いてしまうくらい、その文庫本には違和感しかなかったのだ。
中身自体は先週千反田に貸した文庫本そのものだった。
しかし外側が違った。
文庫本には紙製のブックカバーが掛けられていた。
俺が千反田に渡した時には掛けられていなかったものだ。
それは構わない。
律儀な性格の千反田のことだ。
俺から借りた文庫本を汚さないように自前のブックカバーを掛けたのだろう。
問題はそのブックカバーに書かれていた文字だった。
おそらくはサインペンで記されたのだろう、カバーの表側から裏側に渡る大きな文字。
書かれたばかりなのかシンナーの臭いが鼻に衝く。
カバーには『ゲーム開始!』と下手な字で記されていた。
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