過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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456: ◆2cupU1gSNo[saga]
2014/04/24(木) 19:17:35.68 ID:ffmefjFJ0


突然自分に話を振られた千反田がカセットテープの声に返答する。
その様子がどうにも千反田らしく、こんな時だというのに俺は苦笑してしまっていた。
続くカセットテープの田井中の声もどこか苦笑しているように聞こえた。


「改めて話すとなんだか照れちゃうな、今のえるに話し掛けるのはこれが初めてなわけだし。
いや、前のえるとは話してた記憶はあるんだけど、実はあれって自分会議みたいなもんなんだよな。
頭の中で自分じゃない誰かと語り合ってるって感じか?
そんなわけで、前のえるとも直接声に出して話し合ったことはないんだよ。
ま、それはどうでもいいことか。

とにかくえる、この二ヶ月、迷惑掛けちゃったな。
私なりに頑張ったつもりだけど、色々失敗もあったかもしれないな。
特におでこの傷は悪かったな。
痕は残ってないから大丈夫だと思うけど、その傷のせいでなにかあったらホータローに責任取ってもらってくれ。
責任取るってどういうことかって?
それはホータロー次第だな。

摩耶花と冬実、十文字にもよろしく頼む。
三人ともえるのことが気になってたみたいだけど、十文字は特に心配してたよ。
元々線が細い奴だったけど、私がえるの中にいるって知ってから余計に細くなってるみたいだった。
できるだけ早めに会いに行って安心させてやってくれ。
冬実にも世話になった。
お返しのぬいぐるみを作っておいたから、それとなく渡してくれると助かる。
摩耶花にも漫画貸してくれてありがとうって言っておいてくれ。
摩耶花と行った買い物、楽しかった。
今度は私から摩耶花に奢るよ。

里志には……、ま、あいつはこのテープを聞けば満足しそうだけどな。
学術的にとても興味深いよ! とか言い出しそうだ。
いやいや、里志にも感謝してるよ。
でも、摩耶花を大切にしてやれよ?
摩耶花は私の友達なんだから、悲しませたらただじゃおかないからな?」


終わりが近付いている。
テープの録音時間の終わりが近付いている。
ラジカセの中を覗き込んでみると、テープの残量が極僅かだと確認できた。
時間と、テープの残量は止められず、流れ続ける。


「それじゃ、これでお別れだ、ホータロー、える。
この二ヵ月間、世話になったな!
ホータロー、誕生日プレゼント嬉しかったよ、ありがとな!
える、これからのえるの人生は私たち皆が欲しかった時間なんだ。
面白おかしく、元気に暮らしてくれると私たちとしても本望だよ!
そろそろこのカセットの表は終わるけど、裏面は私のドラムの演奏を残しとく!
たまに聴いてやるかって気になったら聴いてくれると嬉しいよ。
本当にたまに、昔話をする時にでも思い出して聴いてくれ。
田井中律って臨時の古典部員がいたことを、たまにでいいからさ!
んじゃ、またな!」


その言葉が終わるが早いか、ラジカセの再生ボタンが元に戻った。
カセットテープの表面の再生がちょうど終わったらしい。
あっさりした終わりだし、最後まで慌しい奴だったな……。
だが、それも田井中らしいか。
涙の別れなんて似合っていないだろう、俺も、田井中も。
いや、もしかしたら田井中は……。

不意に思い立って、再生が終わったカセットテープを取り出す。
裏返して入れ直し、再生ボタンを押そうとすると俺の腕が誰かに掴まれた。
他の誰かがいるはずもない。
俺の腕を泣き出しそうな表情で掴んでいたのは千反田だった。
俺は再生ボタンを押すのを中断して、座布団の上に座り直す。


「どうしたんだ、千反田?」


「あの……、折木さん。
一つお訊ねしてもよろしいでしょうか?」


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