過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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458: ◆2cupU1gSNo[saga]
2014/04/24(木) 19:19:07.96 ID:ffmefjFJ0
「なあ、千反田、お前は前の自分が今と同じ性格をしていると思うか?」
「それは……、分かりません……。
ですが、まだ微かに残っている田井中さんの記憶の前のわたしは、わたしに似た性格だった気がします。
自分自身のことですから、はっきりとは言えませんけれど……」
「それで十分だ、千反田。
お前の中に残っている微かな記憶が正しいとしよう。
それで今のお前と前のお前が同じ様な性格をしていたとする。
そう仮定してお前自身が考えてみろ。
高二で死んでしまうお前を救おうと奮闘している田井中の姿を見て、お前はどう感じる?」
「えっと……、申し訳ないと思います……。
前世の縁があるとは言え、わたしのためにそこまでして下さるなんて」
「お前らしい答えだが、そこは申し訳ないより他の言い方があるだろう」
「そう……ですね。
申し訳ないは田井中さんにも失礼ですよね、言い直します。
嬉しいです。
わたしのために一生懸命になって下さるなんて、とても嬉しいです。
その御恩をどうにかお返ししたいと思います」
「前の千反田えるもそうだったとは考えられないか?」
「えっ……?」
「田井中が前に言っていたよ、自分にはちょっと不純な気持ちもあったってな。
今から自意識過剰なことを言うが、どうか素直に受け止めてくれ。
なあ、千反田。
田井中の残したカセットテープについてどう思う?」
「突然そう言われましても……」
「楽しそうだな、とは思わなかったか」
「あっ」
千反田が驚きに似た声を上げる。
そうだ、田井中は楽しそうだったのだ。
カセットテープに限らず、俺たちと一緒にいた時は楽しそうにしていたのだ。
田井中は、楽しかったのだ。
「田井中の言った不純な動機……、それは俺たちと遊びたいってことだったんじゃないか?
高二で死ぬ千反田の顛末を数知れないほど見る内に田井中は思ったのかもしれない。
俺たちの仲間になりたいと。
俺たちと一度でも遊べたら楽しいだろうなと。
もちろんそれは少し不純な動機だ。
千反田を救うための手段を考えながら、そんな風に考えてしまうなんてことは。
当然だが田井中が悪いわけじゃない。
それくらい俺たちの古典部の活動が楽しそうに見えたってだけだ。
そんな本来なら叶えてやるまでもない願い。
だが前の千反田はそれを知って叶えてやろうと思ったんだろう。
さっきお前が言った通り、お前のために一生懸命になってくれた恩返しとして」
それが千反田えるという女だった。
前の千反田が今の千反田と似た性格をしていたとしたなら、彼女もそう考えたはずだ。
俺はとっくの昔に死んでしまっている千反田に思いを馳せながら続ける。
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