過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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50: ◆2cupU1gSNo[saga]
2013/07/21(日) 21:40:15.35 ID:o00vW39W0
「お待たせしました」
入須がお茶の二杯目を飲み終わるくらいの時間が経った頃、
古典部のドアが開けられて、珍しく大人しい様子の声が響いた。
ドアを開いたのは伊原だった。
妙に大人しい声色だったのは、中に入須がいることが分かっていたからだろう。
「遅かったね、摩耶花。
どうしたんだい?」
「ごめんね、ふくちゃん。
準備は結構前にできてたんだけどちーちゃんが……」
里志の疑問の言葉に伊原が口ごもる。
それからすぐ、その伊原の様子を吹き飛ばす明るい声が部室に響いた。
「いやー、ごめんなー。
この学校のことが気になって、ちょっとだけ摩耶花に案内してもらってたんだよ。
つっても知ってる所ばっかだったんだけどな」
同じ声色だというのに語調も口調も全く違うその声。
その事実は昨日から千反田の状態が何も変わっていないことを示していた。
脱力する思いで視線を向けてみると、髪型だけは普段通りの千反田がそこで笑っていた。
ポニーテールにしていなければ、カチューシャで額を出してもいない。
あの眼鏡の某という女子に借りたというカチューシャは返却したのだろうか。
「おーっす、冬実。
今日は冬実も部室に来てくれてるんだな」
「冬実……?」
右手を挙げて千反田、いや、田井中が入須に微笑み掛ける。
さすがの入須も田井中のその様子には面食らったようだった。
これまで見たこともない怪訝な表情で首を傾げている。
俺から話として聞いていたとは言え、ここまで千反田が変貌してるとは思っていなかったのだろう。
「これはどういうことだ、千反田?
ふざけているわけではないんだろうな?」
入須が立ち上がって田井中に詰め寄っていく。
まさか入須がここまで積極的に田井中の様子を不審に思うとは俺も予想していなかった。
いや、入須だからこそかもしれない。
入須は俺たちとは比較にならないほどの昔から千反田のことを知っている。
俺たちの知らない千反田の姿もたくさん知っているのだろう。
だからこそ俄かには信じがたいのだ、田井中という存在を。
これでも二人は幼馴染みなのだから。
「ごめんな、冬実。
これでもさ、私はふざけてるつもりじゃないんだよ。
そりゃまだ私自身だって半信半疑だし、こんな状況に戸惑ってるんだけどさ。
でも冬実もホータローから聞いてるんだろ?
私がえるって子じゃないんだって」
「だがそれは……」
「そうだ冬実、一つだけ話をしていいか?
これを話すときっと冬実も信じてくれると思うんだけど」
「何だ?」
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