43: ◆IpxC/P/Kzg[saga]
2013/06/11(火) 14:38:15.75 ID:hhjSfFKI0
「なら。それなら、どうして私の事を受け入れてくれないの」
別に、そのときの私は恋心を抱いているわけではなかった。
女性として受け入れてもらえないのか、と不安だった。
それは私にしては珍しく、感情的な一言だった。
『好きだからこそ、受け入れるつもりはないんだ』
『ほら、いつか、言ってくれただろ。恋愛映画が好きだ、って』
『ああいう感じでさ。自分にとって、無くてはならない誰かにするべきだ』
『ええと、何て言えばいいのかな。俺はその為の土台、みたいな感じかな』
『…というか、まず。俺みたいなのに、奏の隣は務まらないよ』
どこか遠くを見て、少しだけ寂しそうな顔をして、私に言った。
そして、その時気付いた。彼が、どこまで私の事を大切にしていたかを。
蔑ろにされていたのではなかった。むしろ、どこまでも大切に扱ってくれていた。
それに気付いたとき、私は、無理矢理という形で、彼の唇を奪った。
彼は困惑しているようだった。自棄を起こしたのか、と。
そうではない。私がしたいから、そうした。焦りを抑えて彼に告げた。
彼は複雑そうな表情をして、そうか、とだけ呟いて、帰ろうか。そう言ってくれた。
隣を歩く彼の距離を意識したのは、そのときが初めてだった。
あの唇の感触が忘れられなくて、常日頃私は彼にキスをしようとする。
彼も少しだけ理解を示してくれたようで、照れていた。
私たち距離は、ゆっくりと近づいている。
いつか、この願いが叶うのなら。
いつか、キスでこの距離がゼロになればいいな。
私らしくない私の言葉で、今日も私は、鏡の中で、彼にそっとキスをした。
おわり
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