39: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:53:53.88 ID:gq9TOo4jo
『……うわっ』
手鏡で確認すると、まるで亡者みたいな顔がそこにあった。これではいけない。今から契約をまとめるのに、こんな顔で行くわけにはいかない。
少し気を引き締め、そして手鏡をカバンに仕舞うと、俺は社屋の中へと入っていく。
『お久しぶりです。以前ご連絡を差し上げた、零細プロのPですが』
「お久しぶりです、Pさん。社長がお待ちです、こちらへ」
応対に出てきたのは、一週間前に視察へ来た時に、応対をしてくれたプロデューサーだった。身なりもよく、愛想もいい。彼みたいな人なら、茄子さんを任せられるだろう。
「どうかなさったのですか?」
『ああ、いや。なんでもないですよ。さ、行きましょう』
どうやら少し凝視しすぎていたようで、怪訝な顔をされた。当たり前だ。いきなり相手の顔を凝視したら、訝しむに決まっている。
そうして案内された応接室では、すでにプロダクションの社長が待っていた。サイトの紹介ページと同じ、恰幅の良い中年男性だ。ただ、やはり社長としては幾分若い気もする。それに、やはり見たことのある顔の気がする。
「おお、待っていたよ、Pくん。ささ、どうぞかけて」
『はい、では失礼をします』
そう断ってから、俺はソファに腰を掛ける。そして、カバンを開くと、中から書類を取り出した。契約条項に関するものから、手続きに関するものまで、全部揃えてある。
『契約条項に関しては、メールでのやり取りで確定しています。ご確認を』
「ふむ……。なかなか、手際がいいね」
社長は、俺の顔を見ながらそうまじまじと言った。褒められるのは悪い気はしない。それに、これだけ手際よく移籍を終わらせられれば、きっと社長も茄子さんに期待をかけてくれるだろう。
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