129: ◆.g97gKoujg[saga sage]
2014/05/29(木) 22:39:36.17 ID:AYh6U4af0
「……行かせて宜しかったのですかな?」
「良くはないな……」
マリアヴェルは素っ気なく答えた。
いつからそこにいたのか彼女は吾妻と一緒に小さくなっていく凉一の背を見つめている。その雪灰色の瞳には凉一の姿はどう写るのだろうか?
「戸惑っているのでしょうな」
吾妻は人間だ。それ故、人間ではなくなってしまった凉一の苦悩は推し量れないが、想像する事は出来る。
今までの生活を捨てて吸血鬼として生きていくなんて多感な少年には酷だ。やはり一番長い時間を共にした家族への思慕は大きくなるばかりだろう――
「いずれにしろ凉一が決めた事だ……アイツはもう戻らない……な」
もう凉一の姿は無い門に視線を向けたまま独白するマリアヴェルに、老人は問うた。
「彼を同胞に迎えたのを悔いているのですかな?」
「…………いや、後悔は無い。ただ……寂しいな」
「『寂しい』……ですか」
マリアヴェルに仕えて数十年、彼女は寂しさを纏うような憂い顔を覗かせても、その口からこれほどの弱気が漏れ出るのを吾妻は見た事は無かった。
しかし、吾妻はそんな主の変化も好ましいものだと思えた。マリアヴェルにとって比良坂凉一は必要なのかもしれない。
「御館様――」
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