89: ◆.g97gKoujg[saga]
2013/08/14(水) 22:02:10.08 ID:8xf5Fpee0
「『銃で射たれたのに傷がない』……と、思っているな?」
そのよく通る声に凉一は自分の心を読まれたかと錯覚してマリアヴェルに向き直った。
「気を失なう寸前だったからな……キミは」
マリアヴェルは雪灰色の瞳を伏せた。長いまつ毛が震える――。凉一にも彼女が何か躊躇しているのが感じられた。
少し時間をおいてから瞼をあげたマリアヴェルが口を開いた。
「キミの名は調べてあるが、キミの口から直接聞きたい……君の名は?」
「比良坂……凉一」
自分の身体に起きた異常を忘れさせるほどの綺麗な瞳に吸い込まれる凉一の名前。そしてマリアヴェルは彼に伝える――。
「キミは……凉一は…………吸血鬼【ヴァンパイア】に生まれ変わった」
「…………え……何を……」
理解を越えた発言。吸血鬼とはフィクションの世界の生き物のはず。凉一は自分の耳を疑わずにはいられなかった。
「マ、マリア……ベル! ボクは……」
冗談や悪戯にしてもまるで状況を理解できない凉一は、詳しい話をマリアヴェルに求めようとしたが彼女は微笑んで言った。
「名前……覚えてくれていたんだな」
その直後に『アフ……』と小さなあくびをして扉へ向かう。
「すまないが眠くてかなわん……詳しい話は茨木に聞いてくれ」
「え? ちょっと……」
食い下がろうとする凉一を遮るように『最後に』と、マリアヴェルは付け加えて
「昨日の昼間……キミは何をしていたか覚えているか?」
「何って……」
普通に学校に行って勉強したり友人達と話したりしただけだ――。マリアヴェルは何が言いたいのか?
「それがキミの……凉一の陽光の元での最後の思い出になるだろう……大切にしておけ」
その後『ごめん』と、そう言い残してマリアヴェルは部屋から去っていった。凉一は彼女の哀しそうな表情に何も言えなかった。
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