346:(お題:あぜ道)5/5[saga]
2013/08/14(水) 23:16:29.83 ID:mmcUJHm40
任務を終えた敵機のうち一機が、僕たちの村に向かって高速で飛来し、無駄な抵抗をしている自走砲にミサイルを撃ち込む。
敵ながら鮮やかとしか言いようのない手際だった。攻撃対象の沈黙を確認すると、宇宙人の戦闘機はそのまま翼を翻し、海の
方へ戻っていった。数分後、僕たち基地の攻撃機が引き返した時には、既に守るものなど一つも残されていなかった。
その翌朝、野外で一晩過ごした僕はなにくわぬ顔で酒場に戻った。母、祖母ともに怪我一つなく、避難所で一夜を明かした
ようだった。家は無事で、というより、村全体がほぼ無傷のまま戦火をくぐり抜けた。被害があったのは軍の輸送路と、兵站
くらいのものだった。
壊滅状態だった基地は、その後、魂が抜けたみたいに静かになった。襲撃から数ヶ月経っても強靭な鉄の響きが蘇ることは
なかった。もと通りに再建される予定もないらしくて、縮小体制のまま運営を続けている。
それとは別にもう一つ変化があった。戦闘があったあの夜以降、いつも店に来ていた顔なじみの軍人がめっきり姿を見せな
くなったこと。多分、彼らにもプライドがあったのだろう。僕みたいな子供にあれだけ大見栄をはっておいて、いざ戦いがあ
るとこのざまだったのだ。いったいどんな顔をして酒が飲めよう。理由を考えるのは簡単だ。
それでも僕は思い切って祖母に聞いてみることにした。軍人たちはどこに行ってしまったの、と。
決して少なくはない男たちが、死んでしまったことにはもう勘づいている。ただ僕は、宇宙で死んだ者は空で星になるけれ
ど、地上で死んだ者たちはいったいどこへ行くのか知りたかった。
祖母は感情を交えないで、答える。
「死んだんだよ。死んで、神の国を仰ぐ者はそこへ、悪魔と契った者は地獄へ、何も信じていない者はただ土へ還るんだ」
「じゃあ、星の光になれないんだね」
「そうさね。死人すべての墓碑を建てるには、この空は狭すぎる」
僕はそれっきり、訪ねることをやめた。そしてポケットに忍ばせたナイフを軽く握りしめた。もし僕が死んだら、僕の魂はど
こへ向かうのだろうか。ナイフの滑らかな刀身に自分の瞳を映し、僕はしばし己を見つめた。
(了)
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