過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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40:最後の廃墟(お題:フルフェイスヘルメット好きの女の子) 1/5  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/07/16(火) 00:44:15.41 ID:n6DekYwS0

 僕の幼馴染の部屋には、フルフェイスヘルメットが散らばっている。彼女が何故そんなものを集めているのか、僕には一切理解できない。彼女
は別に二輪車に乗るわけでもないし、彼女に近しい人がバイク好きというわけでもない。ただ、彼女はフルフェイスヘルメットを好んで集めている。
 どうして彼女がそんなものを集めるのかはわからないけれど、彼女は常にそのフルフェイスヘルメットを頭にかぶり生活を送っている。それは
常に、どんな時もだ。もちろん入浴時や就寝時なんかには外すのかもしれないが、僕が見ている範囲では、彼女がそれを外しているのを見たこと
は一度もない。だから僕は、最近では彼女の顔を見る機会がなくなってしまっている。その仮面の下に何を考えているのか、どんな表情を見せて
いるのか、どんな目で僕を見ているのか。僕と彼女の間には、常にフルフェイスのヘルメットが薄い壁として存在している。
 彼女がフルフェイスヘルメットを自らのアイデンティティとし始めたのは、今から四年ほど前。僕らが十三歳くらいの時の事だったように思う。
僕らは仲が良く、良く二人でとある場所に遊びに出かけていた。
 僕らが住むA町は、B市との戦争も和解に終わり、戦争時の前線が復興され始めた時期だった。A町、B市、お互いの地域の境界、その半径五
キロメートルほどが軍事攻撃認定地域と定められ、実際にそこで戦うのは戦争のプロたちだったため、ほとんどの町民や住居には被害は出なかっ
た。それぞれの町・市から委託された軍事業務を行う会社が、その戦争認定地域で戦い、いわば住民・市民が関与することの一切ない代理戦争的
な形で戦い続けていた。実際にそれぞれの地域に住む僕らが戦うことはもちろん無かった。戦争が行われている実感すらほとんどなかった。その
戦争はいわば、お互いの地域の経済の活性のためだとか(戦争を行うことで国から資金が支給されたり、軍事企業やその他の物資や人件費で金が
回ることによって、多くの人が儲かり、それが地域に還元されたりするため)、その他には、それぞれの地域の産業が持つ技術力の確認・発展の
ためだとか、他にも色々と市政的な黒い噂などが流れたりしたものの、しかし僕たちには結局、何でそんな戦争が起こったのか、なぜ僕らの町が
そんな戦争をしなければならなかったのかすらわからなかった。
 とにかくそんな戦争が終わった後、その戦争地域の近所に住んでいた僕ら二人は、戦争跡地を探検することが主な休日の過ごし方となっていた。
僕はもともと廃墟を巡るのが大好きで、そして幼馴染の絵梨奈は珍しい廃品など変なものを拾うのが好きだったから、戦争跡地を歩き回ってお互
いの趣味嗜好を満たすのが、僕たちの最先端の遊びになっていた。本当は戦争の跡地に入ることは学校側から固く禁止されていたのだが、しかし
実際に跡地にほとんど警備はおらず、むしろ好きなように入ってくださいと言われているようにしか思えないほどのずさんな警備だったので、僕
らは特に注意も払わずにその場所に入ることが出来た。
 戦争跡地では、もちろん重火器や小規模な爆薬などによって、たくさんの建物が破壊されていた。道を歩いていると、コンクリートにわずかな
血の跡が掃除されずに残っていることもあった。爆破の痕だったり、草が辺り一面焼け焦げてしまっていたりなど、実体の見えなかった戦争の痕
が、僕らの身近にも確かに存在していることが、そこでは窺えた。
 僕らは手を繋ぎながら、廃墟に入る事が多かった。よくよく探してみると、廃墟内では空薬莢(やっきょう)や死んだ人の歯の欠片が見つかっ
たりなど、意外に生々しい物が残されたりしていた。しかしながら僕はそれらに一切の興味がなく、廃墟の美しさや、崩れた建物自体が放つノス
タルジー、誰も寄りつかない秘密めいた怪しさに浸っていたりしているのが好きだった。絵梨奈はと言えば、そこらに落ちているものを拾って、
キラキラとしたデコレーションが付いた箱に集め、じっくりと眺めるのを嗜好としていた。
 そうやって、思い思いに若干歪んだ趣のある休日を一緒に過ごしている中で、彼女は焼き尽くされた駐車場のフェンスの外に、焦げたフルフェ
イスヘルメットが落ちているのを発見した。それが彼女とフルフェイスヘルメットの出会いだった。そして彼女の倒錯した趣味の始まりでもあっ
たわけだ。
 フルフェイスヘルメットを拾った時、彼女の目が一瞬怪しく光ったように僕には感じられた。もちろんそんな事は気のせいだと言われれば、ま
あそうだと頷くしかないのだが、今思えばやはりその違和感のような予感めいた感情は、結局当たってしまっていたのだから始末に負えない。
「これ、いいね」
 拾いながら彼女がそう呟いたのを覚えている。彼女は滅多にそういう事を口にしたりはしない。それは彼女が無口だというわけではなくて、普
段はユルい感じで喋ったりするのだが、何かを拾い集め、それらを眺めている時には、彼女は寡黙になる。獲物を見定めるシェパードみたいな様
子で。表情で拾ったものの価値を表し、言葉に出すことは滅多にしない。だから、このフルフェイスヘルメットという物は、恐らく彼女にとって
最上級に自らの感情を高ぶらせてくれるものだったのだろう。僕にとっての廃墟の様に。
 




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