過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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44:最後の廃墟(お題:フルフェイスヘルメット好きの女の子) 5/5  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/07/16(火) 00:51:38.38 ID:n6DekYwS0

 久々に晒された眼は、やはり怯えていて、潤んでいた。
 そんな彼女の告白と、彼女の内に生まれて育まれていた恐怖を目にした後で、僕はある決心を抱くに至った。
 僕は立ちあがり、彼女の手を引いて、天井が崩落した部屋へと連れ出した。
「俺が守る」
 彼女は怯えた表情のまま、ぽかんと僕を見つめていた。
「この世のすべての危険から、絵梨奈を守ってやる」
 最初からそうすべきだった。実際の死が広がる荒れ果てた場所に無責任に連れてきてしまった責任も、彼女への恋心も、
近くで起きている大人たちの争いも、それらをひっくるめて僕は今まで無自覚のふりをして逃げていただけだ。今回ばかり
は、僕は逃げることは出来ない。この場面で逃げてしまったら、僕らは一生、お互いの手を握り合って立ち直るチャンスを
失くしてしまいそうな気がした。
「別に絵梨奈が変わらなくてもいい。フルフェイスヘルメットは付けたままでもいい。絵梨奈が見てしまった傷はもう消せ
ないかもしれない。でも、これからはちゃんと俺が守る。戦争からも、見えない恐怖からも。ちゃんと全部、俺が付き合っ
て、とことん話を聞くから、俺、ちゃんとした男になるから、駄目な奴かもしれないけれど、でも俺は、きっと守って見せ
るから。この世の、あちこちに散らばる死の予感から、守って見せるから」
 彼女は右手をぎゅっと握りしめた。俯いて表情は窺えなかった。
 僕らが見てしまった現実は、大人たちが仕掛けた殺し合いは、今もこうして残っていて、彼女の心に傷を生み出した。僕
一人の力では恐らく、戦争を生み出すのを止めることは出来ないかもしれない。でも傍にいる人を守るくらいは絶対にでき
るはずだ。彼女の心の傷が治らなかったとしても、怯えた表情を隠すためにフルフェイスヘルメットをかぶりつづけたとし
ても、きっといつか、昔のような可愛らしい心からの笑顔を向けてくれるようになると信じて、僕は彼女を守りつづけなく
ちゃいけない。様々な恐怖から。僕らに近づいてくる現実から。
 彼女はやがて小さく頷きシールドを閉じて空を見上げた。この星空の下で、今もどこかで戦いが起きているのだろうか。
誰かが何かのために戦って、それぞれの主義主張のために戦って、そして死んでいく人も居て、誰かが誰かの名前を叫びな
がら助けを求めているのだろうか。僕たちと同じような子供たちが、銃で撃たれ死んでいるのだろうか。圧倒的な力で踏み
つぶされてぐしゃぐしゃな肉の塊になっているのだろうか。
 僕は絵梨奈の手を力強く握り返して、しっかりと彼女の顔を見つめ、それからしっかりとした足取りで歩き出した。大切な
人は自分の手で守り続けなくてはいけない。これから過す日々の中で、決して彼女の手を放してはいけない。放した瞬間に彼
女は恐怖に呑み込まれて二度と安らかな場所に帰って来られなくなるから。
 僕は固い決心と共に、手を繋ぎながら、彼女の傷痕の象徴のような廃墟を抜け出した。決して振り返りもせずに。彼女の冷
たい手をしっかりと握りながら。
 たくさんの魂が眠る、この暗い暗い廃墟から。
 僕らは確かに、外に出てはじめの一歩を歩き始めたんだ。
 お互いの手を離さない様に。


 
 ――――了――――


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