過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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496:No.3 結婚前夜 1/10  ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/09/01(日) 14:54:26.26 ID:ho2+SDFr0

 いよいよ結婚式が明日に迫っていた。
 親しい知り合いや会社の人などからは既に多数の出席の連絡を受け取っている。そもそも明日の結婚式の準備については、
もうしつこいくらい何度も確認しているし、式場で出す料理や引き出物なんかについても散々相談して、納得のいくものを
決定してある。だからもう準備は万端であり、前日ともなると特にやることは無くなってしまう。いや女性の方は色々と気
を揉んだり、なんだかんだとやることがあるのかもしれないけれど、俺なんかは本当にやることが無くて暇だ。結婚式の前
日とは言っても、明日の服装を事前に合わせて見たりするぐらいがせいぜいだ。
 でもこうして、二人が結ばれる直前の最後の日を、恋人として過ごすだろう最後の日を、彼女とこうやって一緒に過ごし
ている事に、やはり不思議な感覚と言うか、あるいは幸せと言うか、言葉に上手く例えられない気持ちを感じたりしてしま
う。一応は、俺たちお互い愛し合っているわけだし。
「ねー、やっぱり食事はBコースの方がよかったかなぁ」
「何をいまさら……」
 特にやることもなく居間の畳でごろごろと寝転がっていると、美加は少しだけ不安そうな声音で俺にそう訊ねて来た。今
更そんなことを心配したって仕方がないのだが、こいつは昔からそうなのだ。優柔不断で、散々悩んで決めた後でも、自分
の決断が間違っているんじゃないかと、ウジウジと悩んでしまう。俺は昔からそんな美加の隣に立って、いろいろと相談に
乗ってやったり、彼女が何かを決断できないときは、バシッと代わりに決断してやったりもした。だが美加にもそろそろ自
分の決断に責任を持ってもらわなくちゃいけない。結婚をして、そしていずれかはママになるのだ。だから、ここは彼女が
自分の決断に弱気にならない様に、自信をもって明日に臨めるように、ビシッと言ってやらなければいけない。
「散々悩んで、それでも美加が決断したんだろ。大丈夫だよ。みんな納得してくれるし、俺も納得してる。明日はそんな顔
すんなよ。晴れやかな日になるんだから、自分の選択に自信を持て。食事はCで大丈夫!」
「でも……翔ちゃん、Cコースの料理にあるピーマン食べれないじゃん……」
 ちらっと上目遣いで、まるで咎められているかのように見つめられる。こうやって、昔からピーマンが食べられないのを
散々からかわれてきた。子供っぽいだの、体は大きいクセに舌がお子様だのと。幼い時からそうだった。彼女は言い争いで
俺に勝てないから、そんな変なところばかりを攻撃してくるのだ。
 なんだかその事を思い出したら、思わずふふっと笑ってしまって、美加に変な目で見られた。美加との思い出が、彼女の
その言葉によってまるで走馬灯のごとく駆け巡って、胸に温かいものが満ちていくような、そんな愛おしい気持ちになった
のだ。
「俺の事はいいんだよ。どうせ大して食わないんだから。そもそも結婚式って言うのは女性が主役なんだよ。純白のさ、眩
しいほどにきらめきを放つウエディングドレスを着て、みんなのカメラのフラッシュを浴びて、そんで家族からクソ長い手
紙読んでもらって……お前の家族、手紙読んでる最中にきっと大泣きするぞ。俺には分かる。あの人と俺って結構似てるん
だ。不器用そうな人だけど、お前の事すっごい愛してたんだろうからな。あっ、愛してるっていたって別に変な意味じゃな
いぞ」
「ふふっ……分かってるよー。ん、やっぱ、そうかなあ。……えへへ、なんかありがとう、翔ちゃん。よく分かんないけど
ちょっと安心した」
「よく分かんないって何だよっ! まあ、昔からずっとお前の面倒見てきたし、今更お礼を言われようが何の感慨もないけ
どな」
 俺が照れ隠しのように茶化すと、美加はもう一回ふふっと笑ってから、ゆっくりと立ち上がった。恐らくお茶を淹れに行っ
たのだろう。長年見続けきたその背中は、先程よりも少しだけ安心したように、リラックスしたように見えたからもう大丈夫
だろう。




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