過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)4
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778:島本さんが分からない(お題:折り畳みかさ) 4/6  ◆/xGGSe0F/E[sage]
2013/10/21(月) 01:58:57.89 ID:NnV1TwCv0


 帰りのホームルームが終わる。掃除当番の人たちが机と椅子を後ろに下げ始める。先生はとても良い姿勢で廊下を歩いて
いく。僕は特に予定もなく、家に帰ろうとしている。ただ一つだけ問題なのは、僕らの町に大きな渦が出来てしまっている
事だ。相変わらず雨は降り続いている。雨脚は強まり、風は勢いを増し、台風は僕らの町に予定通りにやって来ている。そ
して僕は傘を持ってきていない。ああ、惨めだ。こんなことなら傘を持ってくれば良かっただなんて、そんな愚にも付かな
いような後悔をしたところで、これが僕と言う人間なのだから、どの道傘なんか持ってきやしなかっただろう。学校の玄関
口に置いてある傘立ての置き傘を盗むって手もあるけれど、そもそも他人の持ち傘と置き傘なんて区別もつかないし、だい
たい盗みなんか僕はしたくない。これは僕の責任であり、それで他人の傘なんて盗んだら、僕はただの屑じゃないか。僕は
間抜けだれど屑ではない。これはとても大事な線引きだ。というわけで、僕はどうしようもなく、傘を差さずにこのほとん
ど嵐と言ってもいいぐらいの大雨の中を、駆け抜けて行くしかないわけだ。みんなに後ろ指を差されようとも、それが僕の
キャラクターであることを自覚しつつも、僕はこのひどい雨の中をかけていかなければいけない。
 下駄箱で上履きと靴を交換している時に空に稲光が走り、そして数秒後に辺りに轟音が響き渡った。辺りに居た女子たち
は悲鳴を上げ、男子たちはこのちょっと非日常ともいうべきか、いつもとは違う雰囲気にはしゃいでいる。僕はと言えば、
豪雨に強風、おまけに雷ときて、非常にうんざりした気分に駆られた。もう傘を盗もうかな、とちょっと思ってしまったぐ
らいだ。
 靴を履いて、玄関の庇の下に立ってみる。そしてじっと雨を見つめる。ああ、僕の人生はいつもこうだ。ひどい雨になる
事が分かっているのに傘を持って来ない。怒られることが分かっているのに、宿題をやってこない。雰囲気が悪くなること
が分かってるのに、理屈ばかりを捲し立てる。まるで本当に、ひどい雨の中を傘も差さずに走る抜けるみたいな人生だ。土
砂降りの雨に濡れて、寒さに震えながら、笑われるような人生だまあ、そんなポエティックな言葉を頭に浮かべてみたとこ
ろでどうしようもないし、問題が何一つ解決するわけじゃないので、僕はいよいよ、意を決して雨の中に踏み出すことにした。
「あれ佐伯君。傘ないの?」
 その瞬間に、僕の後ろから、まるでタイミングを計っていたような感じで(いや、まさかそんなことは無いだろうけれども)、
少しハスキーな特徴のある女の子の声が聞こえてきた。
「ああ、傘、忘れたんだね。いや、佐伯君らしいけどさ、さすがにこんな日ぐらいは、気を付けないと。ずぶぬれになって
風邪ひいちゃうよ。心ない人からだって笑われちゃうし」
 僕が振り向くと、何故か島本さんの顔が近くにあって、僕は慌てて後ずさった。結果、短い階段を踏み外して、ぬかるん
だグラウンドに背中から突っ込む形になった。周りにいたやつらは僕の姿を見てくすくす笑い、知り合いなんかは「また佐
伯かぁー」とあきれるように笑い、そして僕に手を差し伸べていた島本さんは、とてもおかしそうに、思わずこらえきれな
いと言うように僕を見て笑いを吹き出していた。
「佐伯君、面白いなあ。今のこけ方漫画みたいだったよ? ああ、ごめんごめん、私の所為なのに」
 そう言って、島本さんは僕に改めて手を伸ばして、僕はその手を取って立ち上がった。そして僕はまた例の、言い訳やら
屁理屈を並べ立てることに専念した。
「ありがとう。いや、もちろん島本さんの所為ではないんだけれどね、でもあんな場所で声をかけられて、それで振り向い
てあんな近くに顔があったなら、誰だって驚くだろう。そう、僕が転んだのは不可抗力なんだ。仕方がない。いや、屁理屈
なのはわかっているけれど、これはどうしようもなかったんだ。ただ、雨が降って階段が滑りやすくなっていて、グラウン
ドもぬかるんでいて、絶妙なタイミングで声をかけられたと言う、僕の不運でしかないんだ」
 僕がそう言うと、島本さんはまたおかしそうに一つ吹き出した。
「あー、また屁理屈言ってる! 私、佐伯くんのその屁理屈って、なんだか好きなんだよねー。妙におかしいのに、本人が
真剣だし。なんか悪い人じゃないんだなーって思うし」
 佐伯さんは、立ちあがった僕の制服の、泥のついた部分を、まるでお母さんがやるみたいにしてパンパンとはたいてくれ
ながら、慰めるようにそう言ってくれた。
 僕はなんだか恥ずかしいと思った。いや、いつもみたいな惨めな恥ずかしさではなくて、女の子にこういう事をしてもら
ってるのを、みんなに見られている恥ずかしさと言うか、なんかクラスメイトにからかわれるんじゃないかとか、そんな純情
な少年みたいな恥ずかしさでいっぱいだった。



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