873:カブトムシ(お題:かぶとむし)6/8[saga sage]
2013/11/28(木) 22:01:50.16 ID:Vjzb4kQx0
***
その日、塚田は大阪への出張を早めに切り上げた。妻には帰りは遅くなると伝えてあったが、昼過ぎには仕事が片付
き、暇を潰すのも勿体ない気がして、すぐに新幹線に乗って帰路に着いた。1泊2日の出張は塚田にとって珍しいもので
はなく、わざわざ観光しこようとも思わなければ、今日が水曜日で明日も仕事があるのだからさっさと体を休めたいと
いう思いもあった。自由席の車両に空き席を見つけると、妻に夕飯前には帰るよとメールして、缶コーヒーのプルトッ
プを引いた。
マンションのエレベーターの中で、塚田は何とはなしに腕時計を見た。時計の文字盤は5時15分を指していて、こん
な早くに帰るのは久しぶりだ、と独りごちた。
4階でエレベーターを降りると、塚田の住む403号室から男が出てくるのを見た。男は34歳の塚田よりちょっと若いく
らいだろうか、スーツを着ているわけでも宅配便業者の制服を着ているわけでもなく、何の用でうちに来ていたのだろ
う、と思いながら軽く会釈してすれ違った。家の鍵は閉まっていた。男が出てからすぐに妻が鍵をかけたのだろう。ポ
ケットの中から地味な革のキーホルダーを取り出した。
家の扉を開けると、そこには妻の驚いた表情があった。
「あれ、メール見てなかった?」
「え、うん。全然気づかなかった」
そう話す塚田の妻は首筋にうっすらと汗をかいている。
「さっきの人は?そこですれ違ったけど」
「ええと、ちょっとDVDの調子が悪くって、その修理の人」
そういって妻はテレビ台の下のブルーレイレコーダーを指差した。
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