過去ログ - ミュウツー『……これは、逆襲だ』
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883: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2014/06/01(日) 22:39:58.48 ID:S8p8k874o
――ねえ
あのひとの声が響いている。
声が反響している。
あのひとの声が、何度も何度も聞こえているような気分だった。
わたしは、それがたまらなく嬉しい。
嬉しいから、わたしはその声に黙って耳を傾ける。
――これも、入り口にあったのと、同じ文字だね
暗い暗い洞窟の中、懐中電灯の光がそろそろと動いている。
せわしなく動く光を眺めていると、頭がくらくらしそうだ。
それでもわたしにとっては、あのひとの声と、そのささやかな照明だけが道しるべだ。
――ちょっとかすれてるけど、まあ……問題なく読めるか
かすかに興奮を滲ませて、あのひとが言う。
わたしは、そんなあのひとの声が好きだった。
優しくて、やわらかくて、聞いていて心地いい。
わたしの身体から染み出すおぞましい声と違って、不快な響きもない。
だから、わたしはあのひとが喋る時、懸命に耳を澄ます。
一言も聞き漏らさないように。
いつも、いつも。
いつもそうしていた。
だから、わたしはその時もそうしていた。
これからも、変わらずそうしていくつもりだ。
――ねえ、こっち来てみなよ
あのひとはわたしの方に向け、手招きをしていた。
目は壁から離すことなく、文字を見たままだ。
だから、あのひとの顔はよく見えない。
けれど、嬉しい気持ちでいることだけは、その優しい声でわかる。
見つけたいと思っていたものを見つけて、あのひとは喜びを隠しきれないのだ。
わたしは、あのひとの嬉しそうな姿が本当に好きだった。
喜びの溢れる、幸福の声が好きだった。
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