71: ◆tSiWM5GIyDZg[saga]
2013/07/14(日) 18:55:07.77 ID:EnRHzSex0
僕は母に肩を貸し、再び寝室へと連れて行った。
眠りに落ちる直前まで、母は僕に対して、謝罪を続けていた。
謝るのは僕の方だ。人の運命すら捻じ曲げた人間なのだから。
「お母さんは、寝たか」
話を聞いていたのか、隣に眠る母をちらりと見ながら父は言った。
「寝たよ」と言うと、安堵したように、こちらに来るよう促した。
「お母さんは、何か言ってたか」
「僕に、幸せになってほしいと」
そうか。荒い息を繰り返しながら、父は深く溜息をついていた。
お父さんも、そう思う。お前には、幸せになってほしいと思う。
父はそう言い、また、深く溜息をついた。呼吸が苦しそうだ。
「お父さんは、お母さんみたいに良い事は、言えないけどな」
「幸せになれよ。お前の為に、金はある。好きなように使え」
「後悔するな。一秒たりとも、無駄な人生なんて、送るなよ」
「これは、なんて言うか、遺言だ。約束だぞ。幸せになれよ」
「うん。僕は、幸せになる。守るよ。約束を。男の約束だよ」
父は、僕の言葉を聞くと「少し寝るよ」とだけ言い、眠りに落ちた。
父もまた、優しい。父の大きな左手は、母の右手を握りしめていた。
僕の家族は、何一つ、寸分足りとも変わってはいないと、気付いた。
そのまま、僕の両親は、目を覚まさなかった。
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