過去ログ - 続編・羊のうた
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12: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/15(月) 20:23:15.74 ID:uzaH7YtN0

「わざわざすいません……」

「いや、構わないよ。今日は定時だからね」
恐縮して話す女の子に、水無瀬は疲れ気味に答えた。
年齢が一回りほど違う男女となれば、周囲から辺に思われるかもしれない。そのおり、適当に目に付いた喫茶店に入る。
時間の制約は特にないものの、この子がアポイントを取るということは芳しくない話題であることが想定出来ていた。

「君も何か飲むといい。時間を割く内容なんだろう?」

「はい……珈琲を」
八重樫葉はカウンターでいそいそと業務に励むウェイトレスに注文した。
確かに、息をつきながらでないと、身にこたえる話になる。

「一砂君のことかい?」
水無瀬は想定していたことを、ストレートに出した。
その問いに、八重樫は俯いたままこくりと頷く。

「だと思ったよ。君が私服姿でこの辺りに出向くとなればね」

「一砂君はこの辺りの高校ですから」
持ち運ばれてきた珈琲に口をつけるが、抑揚が上がることもなく答える。

「……彼に、もう異変が起きたということかい?」

「いえ、それはまだだと思いますが……隠し続けることが限界に来ています」
八重樫も水無瀬も、一砂の奇病について知っている。
「遺伝的に発する吸血衝動」。一砂は、この奇病に侵されていた。他人の血液を欲するものだが、誰彼構わず求めてしまうというわけではない。
この衝動に駆られた時、凄まじい頭痛や眩暈に襲われ、それこそ頭が割れそうな激痛や狂ってしまいそうな感覚が伴う。
だが、一砂は現在この奇病の脅威から抜け出した状態にあった。
数ヶ月前、劇薬を飲み死に瀕した結果、記憶障害という形で一時封印されたのだ。忌まわしい記憶と共に。

「江田夫妻は?」

「時折連絡を取っていますが……あの人達も、隠し続けることは無理かもしれないと参っているようです」
一砂の義親である江田夫妻。八重樫は彼らと連絡を取り続けていた。
共に、一砂の記憶障害を隠し続けることが功を奏すと……考えるところは同じだったからである。

「……無理と感じた原因はなんだい」
水無瀬にとってやはり気が滅入ってしまう話題だった。永遠に消えない影が、脳裏でうっすらと揺れる。
正直なところ、もう関わりたくはない。一砂に恩があるわけでもないのだ。

「私生活でのちょっとした変化や、普遍的な話題で……一砂君は何か異変を感じてる気があるんです」

「そうか……やはり、そうなるだろうな」
関わってしまえば、また……彼女を思い出してしまう。
それだけが、水無瀬にとって、彼らへの協力を阻む障壁となっていた。




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