17: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/15(月) 23:14:27.05 ID:uzaH7YtN0
「僕はそろそろお暇しよう……八重樫君はゆっくりしていきなさい」
数枚のお札と気遣いの言葉を置いて席を立つ。
それは流石に申し訳ないと八重樫は返却を試みたが、水無瀬は耳を貸さずに鈴を鳴らした。
本人からすれば、これ以上の関わりを断つための駄賃だったのかもしれない。
「いい先生だな」
「うん……そうだね」
水無瀬を送り返した一砂の瞳を見つめ、八重樫は呟く。
二人は本来、見知っている間柄だ。にも関わらず、一砂は水無瀬を覚えていない。
記憶が無いのだから当然であるが、思い出す素振りが全く見えないことを、瞳を通じて確認した。
「あっ。ハルさん、すいません」
一砂は本来従事すべきことを思い出し、カウンターに振り返える。
それは、買い出してきた品をハルがケースに詰め終えた後のことであった。
「先輩に荷詰めさせるとは、いい度胸だねぇ〜一砂ぁ?」
率先して動いたハルは茶化すように叱咤する。
「あらお帰りなさい。一砂君、たまにはお客さんになってもいいのよ?」
奥からひょっこりと顔を出した杏子は状況を読んだのか、二人に気を配る。
だが、一砂がそれに甘えることはなかった。
「……ごめんな、八重樫。仕事しなくちゃだからさ」
あの一件以来、木下や八重樫と話す気になれない。
二人と会って話すことは楽しかった……だが、今は怖い。
「でも折角だから、ゆっくりしていってくれよ」
残念そうな表情を浮き彫りにする八重樫への、一砂なりに気遣った言葉だった。
もとより、八重樫に対して好意が無いわけじゃない。
「じゃあ…何か、作ってくれる?」
「ああ、いいよ」
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