過去ログ - 続編・羊のうた
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24: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/16(火) 23:44:52.63 ID:zTn4KZZA0

「……マズいんじゃないか?」

「え?」
教室の片隅で、八重樫は昨日の事を有りのまま木下に伝えた。しかし、返ってきた反応は芳しいものではない。
危ういと思われた場面を乗り切って、一砂の様子は正常なものだと思えた。だからこそ、木下が発する予想外の言葉に突拍子の無い声を出してしまう。

「水無瀬って人と顔を合わせても、高城に異変が起きなかったのは良い傾向だと思う……けど」

「高城が戻る前に、会話が店員に漏れてたってコトはないよな?」

「ぁ……!!」
机にもたれ掛けた木下の顔つきが険しくなる。その意味を捉えた八重樫に、ようやくして不安が襲った。
一砂の記憶が戻ることばかりを気にし過ぎて端々に注意が回っていなかった……今更になって焦燥が身を包む。

「近くに誰かいたのか」
八重樫から聞いた状況を省みるには、ただ単なる偶然で、運が悪かったとしか言いようがない。
だが、店員に会話を一から十まで聞かれていた場合、それが一砂の耳に入った場合は……軋轢を生むどころか、更なる核心に迫られる恐れがあると、難渋に頭を抱えた。

「どうしよう……!!」
八重樫は方策を止め処なく探りつつも、胸中で己の醜態を叱咤する。
あの付近に一砂が通う高校があることはわかっていた。まさかあの場に現れるなどと、勤め先であるとは思いも寄らなかったが……それでも、詰めが甘すぎたことを、己の過失を幾度となく扱き下ろした。

「カウンターに女の人が、最初から居て……聞こえてた可能性が……」
ウェイトレスの存在がまざまざと脳裏に蘇る。ショートカットで、幼顔で、当人と仲良くしていたことを……思い出す。

「……江田さん達に報告したうえで、その人のところに行こう」

「江田さんに?」

「少しは考えろよ……俺たちだけの問題じゃないだろ。実際、ヤバイところまで迫ってるんだ」
八重樫は決して現状を軽視しているわけではない。目の前の事柄に押し潰されそうで、全体が見えていなでいる。そう解釈したうえで、木下は指摘を入れた。

一砂とは旧来からの友人だったが、奇病が起因し一時は仲が悪くなったこともある。
しかし、自分なりの気遣いを見せた末に、高城は心を開き頼ってくれた。
結果としてはあのような結末になってしまったが……それでも今も変わることなく、肩を貸してやれたらと、友達のまま居たいと思っている。

「ごめんなさい……木下君」
現実を突きつけられ、ようやくして己が冷静でなかったことを悟った。

「八重樫サンが落ち着いてやんないとさ。アイツが大事なんだろ?」

「……うん」
木下の心遣いの言葉に対し、恥ずかしげなどなく実直に答えた。










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