29: ◆wPpbvtoDhE
2013/07/19(金) 00:01:31.61 ID:btIPL5cy0
「八重樫さん。木ノ下くん」
どこか粛然とした風の夏子は、二人の目を見つめる。
「……?」
その表情の言わんとすることが解らないでいる二人は、続くだろう音声を待つばかりだ。
「二人は、何も考えないで……あの子に素のままで接してあげてほしい」
それは、自分が出来ないことだった。
いつかは一砂の記憶が戻る日が来る。それならば来るだろう日には、取り留めなく、想う気持ちをありのままの言葉で伝えてくれる人間が傍に居てくれてほしいと……そう、願わずには居られない。
「でも、夏子さんだって、アイツの記憶が戻るのは……」
出来ることならばそれは避けるべきだろう。木ノ下は夏子の想いの一部を拾って答えた。
「ううん。私は覚悟しているるもりでいる。だから大丈夫」
「それに……思い違いだったら恥ずかしいのだけれど」
自分のことではないのに、恥ずかしげに、畏まった口調に変わる。
「思うがままに接することが出来ない貴方たちは……少し辛そうだから」
「母親としての私からお願いでもあるの。みっともないかもしれないけど……あの子の力になって、あげてほしい……」
歯がゆそうで心苦しげに感嘆する夏子が、二人の目には脆く映った。
羞恥も体裁も投げ打ったその姿に、木ノ下は意気を揚する返答を返す。
「……」
八重樫も、気持ちは木ノ下と同じである。一砂と取り留めなく話せる日が来れば、それはどれだけ嬉しいだろうか
だが、心の片隅に……私心が少しばかりの靄を霞めていた。
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