過去ログ - 続編・羊のうた
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37: ◆wPpbvtoDhE
2013/08/25(日) 23:14:25.89 ID:CKIXIKcR0

「じゃあ、注文決まりましたら呼んでください」
一砂がテーブルを離れようとした、その時だった。

「あ……あの……」
三人のうちの一人、ショートカットの女性が一砂を呼び止める。

「もう決まりましたか?」

「いっ、いや……そうじゃなくて……私のこと、覚えてませんか?」

「……?」
思いもよらない言葉を投げられた一砂は、数秒だけ立ち止まって思考を回した。
だが、まるで覚えていない。というよりも、会った記憶の断片すらなかった。

「いえ、自分は覚えてないですね」

「ちょっとマミ。いつからアンタそんなに大胆になったのー?」
クスクスと笑いながら割り込んだ一人が、マミと呼称された女性を茶化した。
だが、当人の表情はあどけていない。寧ろ、どこか緊張しているようにも見える。

「高城さん、ですよね……?」
一砂はネームプレートなどを胸に付けているわけではない。にも関わらず、マミは一砂の苗字を言い当てた。

「どこで……会いましたっけ?」
動悸が走る。目の前の女性は間違いなく自分のことを知っている。なのに、その記憶は一片すらないのだ。
立ち眩みが眼前を過ぎる。マミが一砂に向ける神妙な顔つきが、嫌なことを連想させ始めていた。

「以前、病院で一度」

「……あぁ、あの時ですか」
少しばかり安堵した。
数ヶ月前、一砂は病院に長いこと入院していた。
その目を覚ました当初はふらついていたこともあり、己の記憶が曖昧なのも仕方ないと、思えたから。

「あっ、その……ごめんなさい」
マミは一段と表情を曇らせる。それが何故なのか、一砂は知る由も無い。



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