207: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/14(土) 04:17:22.79 ID:rrrgeDjMo
『……いつか』
ゆっくりと私は立ち上がり、彼女の目を見る。彼女の茶色がかった瞳が、微かに揺れる。
『千秋さんがトップアイドルになった時は、お約束します。その時はきっと』
恥も、外聞も、ない。言うべきだ、と思った。それは、私がそうしたいと思ったから。そして、彼女の気持ちを、感じ取ってしまったから。
『私は、指輪を、用意しておきますから』
気持ちを、精一杯の言葉に乗せて、紡ぐ。これが、この業界の道義に反している、というのは知っている。そして、追放されてもおかしくないほどのことであるのも。
私は平凡な人間だ。幾らでも替えが効く人間だ。才能を有するこの世界で、切り捨てられようと、排斥されようと、文句も抗議も言えない立場ではある。
それでも、後悔なんて微塵もない。理由は単純で、平凡な物だ。
「――! ええ、待ってるわ、Pさん!」
彼女の、これほどにまで嬉しそうな笑顔が見れた。それだけで私の、この人生の全てを彼女に捧げるだけの価値がある。平凡な私に、捧げられるほどの物はそれしかないのだから。
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