2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/31(水) 10:23:45.79 ID:B1MsXbMa0
《August》
所々板が軋み鳴る縁側を通り、引き戸を開けて自分の勉強部屋兼寝室に入る。
八月中旬の午後六時、日は沈みかけ、部屋の中は薄暗かったが蛍光灯もつけずそのまま壁際にずるずると腰を落ち着けた。
瞼を閉じて、頭を壁に預ける。
疲れている────、何も考えずこのまま寝てしまおうとも思ったけれど、思考は勝手にこれまでのこと、これからのことのあれこれに思いを馳せ、頭の中は混沌として整理がつかないでいた。
今日の墓参りの折、偶然会った鳴と帰り道を共にし、しばらく他愛もないことを話して別れた。
なんとなく真っ直ぐ家に帰る気にはならず、ぶらぶらと宛もなく夜見山を散策して、気がつけば家の近くまで来ていた。
その間考えていた、というよりはただ頭の中に漠然とあったあるひとつのこと、それをぼくは────、
「恒一ちゃん、ご飯だよぉ」
と居間の方から祖母の声が聞こえた。
目を開けて時計を見ると思ったより時間が経っている。
退院したばかりのぼくをなにかと気遣う祖母に余り心配はかけたくない。
どんよりとした気分を振り払い、
「今、行くよ」
とはっきりした声で短く返して立ち上がる。
ポケットの携帯電話を机に置いてから、伸びをして固まった背中をほぐした。
縁側に出て思わず目を細めた、燃えるような夏の夕日。
それは、あの夜に見た炎の赤よりずっと透きとおっていて、眩しくて、ただただきれいだった。
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