3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/08/04(日) 18:23:21.90 ID:J9Yav5ZU0
◆
長く狭いトンネルを独り歩く。
コツ コツ コツ
ここはとても寒くて、心細くて、お腹がすいて……
ドク ドク ドク
足音が心臓の鼓動と共鳴する。
足を止めれば、そのまま心臓まで止まってしまうのではないか?
それはほんの一滴。なのに小さな不安のシミが、じわりじわりと広がりはじめる。
ドクッ ドクッ ドクッ
帰りたい 帰りたくない ここから逃げ出したい。
私の迷いは鼓動を高め……
コッ コッ コッ
知らず、足を駆けさせる。
……でも帰れない。
トンネルはとても長くて、出口が見えません。
例え振り返ったとしても、入り口もまた見えないでしょう。
人影も無く、私は世界にたった独りなのではないか?
そんな大きな不安が、私を押しつぶす。
ハァ ハァ ハァ
浅く か細い呼吸。
背が丸まり、自然と私の顔は伏せられます。
今まで視界に入らなかった床の汚れが、意識を引き戻してくれました。
以前は何時も見ていた光景。
何時からだろう? 長らく見る事のなかった光景。
ハ ハ ハ
可笑しい事など何もないのに、私は声をあげて笑います。
誰か見ている人がいたとしたら、私が狂ってしまったのかと心配した事でしょう。
でも、大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの横顔を覚えているから。
―――しかし闇は待ち伏せていた 幸せ全てのみこまれ
希望失って悲しみにくれるなか 空からそそぐ光 暖かく差しのべる―――
不意に口遊む。成る程、確かにぴったりだ。
ならばこれはおとぎばなしだ。
めでたしめでたしで終わる御伽噺、誰もが笑う御伽噺。
だから大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの鼓動を知っているから。
……記憶を掘り起こす……
今なら私は信じられる。
あなたを宿す未来が見える。
差し出された手を取って、私も一緒に歩き出そう。
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