6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/08/04(日) 18:25:19.37 ID:J9Yav5ZU0
気が付けば、私はグループから離れ独り時計台の前に立ち尽くしていました。
幸い今は自由時間ですし、はぐれてしまっていても時間内にバスへ戻れば大丈夫でしょう。
ハァ
溜息がこぼれます。
視線の先には敷石の隙間に生える雑草達が映ります。
地面に生えけってして人にかえりみられる事のない雑草達。私も彼らと同じです。
華やかな芸能の世界に憧れましたが、一度も人前で踊る事のない灰かぶり。
そして誰もが見上げる時計台の下で、足蹴にされる雑草達。
ハァ
また、溜息がこぼれます。
せっかく来た時計台ですし、もっと近くで見てみましょう。
ドン
足を踏み出した私は、誰かにぶつかってしまいました。
ほたる「あの……す、すみません……! 前を良く見ていなくてその」
「ダー、謝罪は受け入れました。だから頭を下げる、ダメです」
顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、澄み渡る北国の空でした。
透き通った青い目が私を見つめ――
「ヤー、だから頭を下げます。空ばかり見ていました」
か細い銀髪が雲の様に風に舞います。
互いにもう一度会釈をしたのち、私はバスへと向かいました。
ですが道中では先程出会った女性の事を考えてしまいます。
……とてもお綺麗でした……あの纏う空気を華と呼ぶのでしょうね。けれど私は雑草。
彼女の様な方が、きっとシンデレラガールに挑む権利があるのだと思います。そして私は灰かぶりのまま。
丸まった背を起こします。何時からでしょうか、癖になった猫背を伸ばすのは久しぶりです。
舞踏会で踊れるとは思いません、だけど灰かぶりにだって歌う権利くらいはあるはずです。
澄み渡る北国の空に向かって、私は歌います。大好きな歌を。
―――二人は両手を握りしめて 喜びあって 幸せかみしめ―――
道行く人々は誰も私に意識を向けません、でも構いません。
灰かぶりの歌はきっとネズミを幸せにしていたのですから。
ガラスの靴も、カボチャの馬車も私には必要ありません。
自然と足取りが軽くなります。シンデレラのダンスはガラスの靴が踊らせたのではなく、灰かぶりの実力であったはずです。
だってそうでしょう? 踊りだすのは赤い靴、ガラスの靴に魔法はかけられていなかったんですから。
ほたる「歌えるだけでも……幸せ……」
あれはおとぎばなし、誰もが笑う御伽噺。
今なら解ります。
たった一度だけであっても、シンデレラは舞踏会へ参加できて幸せだったんです。
だから私は笑わない。
灰かぶりは踊る事を諦めなかったんですから―――どんなに不幸でも。
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