891:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/03(火) 22:26:23.95 ID:C4ok9ZQlo
あたしの顔は赤くなっていたと思う。
「いやそのだな」
「でも、前向いてください。よそ見運転はだめです」
「確かに」
もう時間的には熱帯植物園を回る時間はなさそうだった。既に夕食の心配をしなければ
ならない時間だ。
「妹ちゃん。これからどうする? 熱帯植物園に行くのは無理っぽいって」
お兄さんが無理だと言っているのだから無理なのだろう。それでもあたしは念のために
妹ちゃんに声をかけた。妹ちゃんは返事をしなかったのであたしの言葉は宙に浮いたまま
だった。そのとき、妹ちゃんの態度にお兄さんが少し顔をしかめたようだった。
「妹ちゃん、呼んでるよ」
お兄ちゃんが妹ちゃんに声をかけたけど、妹ちゃんはそれを無視した。続いてお兄さん
もたしなめるように妹ちゃんの名前を呼んだ。お兄さんの言葉に初めて妹ちゃんは反応し
た。
「・・・・・・あたしのこと、もう姫って呼ぶのやめたんだ」
車内の空気が凍りついた。でも、それであたしは自分が本当に恐れ心配していたことが
何なのかはっきりと思い知らされた。それは知らないほうが心穏かだったことだたろう。
妹ちゃんの声を聞いたとき、あたしの胃がきりきりと痛み、あたしの足は意思に反して震
えた。
妹ちゃんの心をお兄ちゃんに向けようと足掻いていた頃からあたしの目標はお兄さんだ
った。お兄さんが妹ちゃんを一方的に好きで、そのお兄さんの好意により妹ちゃんは心を
乱されているのだとあたしはずっと考えてきた。お兄さんが身を引けば妹ちゃんは自然と
落ち着きを取り戻し、側にいるお兄ちゃんのことを見るようになるだろうと。
ただし、妹ちゃんは自他共に認めるほどのファミコンだった。だからお兄さんの自分へ
の恋愛感情を退けた彼女は、そのことに拗ねたお兄さんが兄貴として振る舞うことさえ放
棄して突然一人暮らしを初めて連絡を絶ったことにすごくショックを受けていたことは間
違いなかった。
だからあたしは、お兄さんに接近してお兄さんに妹ちゃんへの恋愛を諦めさせ、かつ良
い兄として振舞うよう働きかけたのだ。そのためにはなりふり構わずに。その甲斐あって
か、お兄さんは良い兄としてだけ妹ちゃんを悲しませないように振る舞うと約束してくれ
て、実際にそれを実行してくれた。彼女まで作ってしまったののは少し誤算ではあったけ
ど、当時のあたしは別に本気でお兄さんに惚れていたわけではなかったから、それは正直
どうでもよかった。
でも、お兄さんのことが気になるようになり、やがて自分の中の恋心をはっきりと自覚
してからのあたしは、以前にましてお兄さんだけを見るようになった。お兄さんのあたし
への態度や妹ちゃんへの態度に一喜一憂するようになっていたのだ。さっきのお兄さんの
言葉に過剰に反応してお兄さんの前から逃げ出したのだってそれが理由だった。
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