過去ログ - 天井「どうしてここまで来たのだろうな」
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195: ◆n7YWDDtkCQ[sage saga]
2014/07/06(日) 23:53:43.02 ID:br/m7kgV0


望ましい内容とはいえ、想定外の方向からの一撃は十分に虚を突く。
何秒かは分からない、その位呆けていた事に気付いて、天井は丁度街路樹の周りにあったレンガの柵に腰を下ろした。

蒸れた夏の湿気にはどろりとした停滞しか感じないが。

天井(こちらの方は進展したということ、か?)

思い至ってPDAを確認するものの該当のニュースは見当たらなかった。
いや、まず流れるはずはないだろう、生徒や保護者を不安にさせるだけの、警備員内のゴタゴタなど。
脳の表層だけ冷静に思考を修正。
ついでに軽量型とはいえ書類よりは重いPDAで、ばたばたと顔を扇いだ。

天井(結果を知ってしまえば『こんな日に』連絡があったのも必然か。
   そもそも移送の日取りは、警備員の大規模ミーティングに合わせている。黄泉川にしても好機だったんだな)

視線を上げる。
補習後の時間を過ごすために学区外へと歩く学生の、熱に当てられだらけた声。
目の前を通り過ぎる少年の一団。
微かに揺らぐAIM測定器の数値。
追うように肌に当たる波のような空気の対流。

風。
PDAを動かす度、人が通る度に、まるでわだかまっていた空気が少しづつ掻き回されていく。

天井(木山は治療が終わった後、敢えて攻勢に出る選択肢も考慮しているようだった。
   その面でも、MARの信用の低下に付け込んで、AIMの専門家として木山をねじ込める可能性が出てきた)

はは、と天井は一面に青く平らな空を仰いだ。

都合が良すぎだ。
黄泉川の言を信じるに、MARは今日の会議に出席しており移送の追跡や妨害はできそうにない。
更に立場の悪化から今後の動きも制限できるだろう。

考えられる限りでも上々の結果に、逆に気味悪く思ってしまう。
このタイミングでこういった連絡が来ること自体、罠なのではないか。
あるいは通話先の『黄泉川』は本当にあの女警備員なのか。

天井(……いや。流石に偽物の恐れは少ないか。後で直接会って話せば事の真偽はすぐに知れる。
   今この瞬間だけ私を騙して得られるメリットは……浮かれて木山達に迂闊な連絡を取った場合だけか?)

そうであれば、予定通りに動くだけで敵の狙いは封殺できる。
逆に本隊が現在危機的状況にあるのなら、
MARの立場で考えると天井に余計なコンタクトを取って予想外の動きをされるのは下策だろう。

天井「本当に……朗報なのか。少しでも危険は減ったと、思っても良いのか」

ふと周辺一帯が暗くなって、鯨のようにアドバルーンが流れていく。

空に立ち込めるあの浮遊物のように、かつての転落の契機である樹形図の設計者の宣託のように、
天井の意識には「失敗」がぼんやりと影を落としている。
何もかもが悪い方へと転がったかつての記憶も。
空回って暴力沙汰に首を突っ込むなどという直近の苦い経験も。
それらは、あるいは明確に攻め立ててくるトラウマよりも根が深いのかもしれない。
天井は何をするときも無意識に成功のビジョンを思い描き難くなっていた。

しかし、どんなに淀んだ状況であれ、人が動けば風は生まれるのではないか。
この移送に関わる面々の顔を確かめるように脳裏に描く。

電話一本に散々重ねた思索。
その上で、考えても考えても黄泉川の連絡に限っては落とし穴は無いように思えた。

天井(どちらにせよ――今は信じて役割を全うするしかない)

ここまできてやっと天井は動揺から立ち返り、じゃり、と音をさせて立ち上がる。
少しだけ肩が軽くなったのは錯覚ではないだろう。
それでも浮き足立たぬよう、影が通り過ぎるより先に、天井は自ら足を踏み出した。





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