過去ログ - 天井「どうしてここまで来たのだろうな」
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197: ◆n7YWDDtkCQ[sage saga]
2014/07/06(日) 23:58:51.22 ID:br/m7kgV0


あれから一か月弱経つ。

その間、木山の生徒達の件はとんとん拍子に好転していた。
結果的に二十二日の夜、移送が終了し一旦の安全を確認した旨が簡潔に知らされた。
そこから連絡が途切れ気を揉んでいたが、後から聞いたところによると生徒一人づつへの治療がほぼ連続で行われ、
特に暴走を起こすこともなく覚醒に至ったとのことだ。
風紀委員の二人や上条少年は骨折り損になってしまった気もするが、
「彼等が居てくれたから安心してことを進められたんだ」という木山の言葉は、本心からのものだったと思う。

天井「覚醒したとはいえ根本的な治療ができたわけではないが――」

天井は研究室のソファの方にもたれ、気を抜いていられる夕方の時間をゆっくりと満喫する。

木山の生徒達に施された処置は、「正常な状態にあるAIMと相互干渉させ、暴走したAIMを安定状態に持ち込む」ものである。
安定状態になった後も、それを維持するために常に干渉元となったAIMが発生している必要があり、
それは小型の擬似AIM発生装置を全員に常備させることで成り立っている。
彼らはたとえ入浴中であろうと腰の脇に固定したその装置を外すことはできないし、
本人以外のAIMにさらされ続ける状況では学園都市で重視される能力の成長もしづらくなる。

とはいえ。
他人の思惑で実験に使われ、昏睡したまま浪費していた子供時代を、これからは取り戻していけるのだ。
冥土帰しはこれからも生徒達の状態を診察しながら根本的な治療法を探すという。
木山も同様に、

天井「そういえば、警備員側に対するアプローチもそろそろ考えると言っていたか」

黄泉川とはあの後直接会う機会を設け、電話で聞いた内容の裏付けを取った。
具体的には地震発生前の出動状況に始まり、
不正に消されていた駆動鎧の稼働ログやら何やらを並べて風紀委員との合同会議の場で追及したのだとか。
直情型に見えて相手の隙を的確に突いてくる黄泉川のことだ、それは鋭い舌鋒だっただろう。
気弱な同僚が隣席でおろおろしていたと、豪快に笑っていたことまでくっきり印象に残っている。

そして木山曰く、十中八九テレスティーナ率いるMARは木原幻生の実験記録の中核となるデータを有しているらしい。
特に暴走の原因が掴めれば、的確なワクチンが作成できるかもしれないということだった。
子供達の状態が安定ししばらく前に退院したこともあり、どのような方向で接触するべきか案を出し合っている。

生徒達自身は二学期からの復学とはいかなかったが、今は通いのリハビリに励んでいる。
天井はまだ接触を避けているが精神的にも元気と聞く。
転入する学校は信頼できる先を冥土帰しが伝手で探す予定だ。

天井「あぁ、さっきの開発の測定値を纏めないとな」

そして。
天井は授業や何やらで忙しない日々を送っている。

しばらくは木山の件の反動で研究が手につかなかったりもしたが共同研究者の容赦無い喝により無事社会復帰した。
それから目出度いことにギプスと別れ、制限されたメニューながらジムにもまた定期的に通えるようになった。

事件は一山越え天井が表立って動くことはほぼ無い。
MARとは、体面を取り繕うためあの後第三学区の調査に同行したが、
そこが外れだったと分かってからは消沈した様子を装って距離を取っている。
治療については専門分野と大きく外れるため、警備員への働きかけについて木山相談するくらいだ。
もちろんこれからも調査なりパイプ役なり協力を惜しむつもりはないが。

非常事態の夏休みからやっと戻ってきたのだ。

気怠げに立ち上がり、天井は授業のデータを転送してあるデスクのPCに向かう。
授業、研究、生徒達の件の相談、ジム。
繰り返しの日常に戻り、しかし治療や研究の完遂といった目標もあり。

天井「それに……いや。まだ全て解決した訳ではないからな。木山の方も余裕は無いか」

いつか。
いつかはこの感情に行き場を――と。

感傷染みた内心の先延ばしを、乱暴にドアを開ける音が遮った。





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