過去ログ - 後輩「わたしは、待ってるんですからね」
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216:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/03(火) 18:12:41.50 ID:tLGXVJlLo



 玄関を出て靴の踵を直したあと、何かが変だ、と思った。

 塵のような細かな霧雨が、舞うように地面に降っていた。太陽の光は布越しに見るかのように霞んでいる。
 すごく肌寒い。冗談みたいに。

 何かが変だ、と俺はもう一度思う。何が変なんだろう。
 
 霧のせいだろうか。視界は悪く、人の気配も遠い。音も鈍く聞こえる。
 もちろん歩くぶんにはまったく困らない。横断歩道の向こうの信号だってちゃんと見える。
 車のライトだってちゃんと分かる。でも、どこか現実味がない。夢の中のような浮遊感。色彩は説得力に欠けている。
 どこかから誰かと誰かが囁き合うような声が聞こえた。くすくすという笑い声すら聞こえそうな気がする。

 濡れた土の匂い。

 天気のせいだ、と俺は思った。珍しい天気だから、ちょっとそんな気がするだけだ。

(本当に?)と俺は訊いた。
(さあ?)と俺は答えた。

 天気のせいなんかじゃない。本当は分かっている。かといって何かが変わったというわけでもない。
 眼鏡を掛ける前と、掛けた後との違い。

 寒々しく、空々しく、よそよそしい。この感じはよく知っている。
 現実だ、と俺は思った。なぜ忘れていられたんだろう。それはずっとここにあったのだ。



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