過去ログ - 後輩「わたしは、待ってるんですからね」
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405:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/16(月) 20:24:39.11 ID:zhZHaN9Ho

 母がいなくなった日、街には深い霧が立ち込めていた。
 
 夕方過ぎに妹が目を覚ましたとき、母の姿はなかった。
 痛む喉を鳴らして、妹は母のことを呼んだ。でも返事はなかった。
 
 乾いた喉を潤すために部屋を出てキッチンに向かい、コップに水を汲み、それを一気に飲んだ。
 それからダイニングテーブルの上に置いてあった一枚の紙に目がとまった。
 
 母が記入すべき欄だけがすべて埋められた離婚届だった。
 おおよそ非の認められない完璧な記入だった。署名と押印まで丁寧だった。

 妹は重い体を引きずるようにして服を着替え、そのまま家を出た。
 熱でうまく動かない体は、霧と焦りのせいで余計に体力を奪われていた。

 霧の中、意識を失って倒れ込んだ妹の姿を、何十分かあとに近所に住んでいた女性が見つけた。
 その後妹は肺炎で二週間入院した。家には俺と父だけが残され、俺は父を激しく責めた。

 父は何も言わずに、状況が飲み込めていないような目で、俺を見た。

 それからろくに会話なんてなかった。父はその翌朝、当たり前のように、学校へ行けと言った。
 そして自分は当たり前のような顔で仕事に向かった。俺は何が起こっているのかまったく理解できなかった。
 父のことをひどく憎んだ。自分たちをこんな境遇に追い込んだのは父が母を蔑ろにしたからだと思った。

 でも、俺だって似たようなものだった。
 妹が霧の中で野ざらしにされていたとき、俺は学校で友達と笑い合っていたのだ。
 妹が風邪を引いていたって分かっていたはずなのに、両親の顔を見たくなくて。



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