過去ログ - 後輩「わたしは、待ってるんですからね」
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526:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/09/28(土) 14:01:38.98 ID:KVRRLmPoo



 もう外は暗かったけれど、まだ帰る気にはなれなかった。
 俺は自販機で烏龍茶を買ってその場で口をつけた。喉の渇きはそれでどうにかなった。
  
 でも他のことは烏龍茶じゃどうしようもなかった。肌寒さや心細さはこの自動販売機では無理だった。
 あるいは何か特別なエピソードでもあれば、心細さくらいはなくすことができたかもしれない。

 たとえばある日の放課後、かわいい女の子とこの自動販売機の傍で楽しくおしゃべりしたとか、そういう個人的なエピソード。
 そういうものでもあれば心細さは雲散霧消し、ちょっとしたほろ苦さが胸に去来し、少しだけ満たされたかもしれない。

 とても残念なことに俺と自動販売機の間に個人的なエピソードなんてなかった。だから心は弱ったままだ。

 俺はなんだかやりきれない気持ちになって屋上へと向かった。確認だ。

 階段を昇りながら、俺は自分を励ました。人は人を傷つけずには生きられないものなんだよ、と。
 傷つけずに生きていると思ってる奴はきっと気付いていないだけなんだ。あるいはそう思いたいだけなんだ、と。

 それでも俺は頑なに反論する。それは積極的に人を傷つけていい理由にはならない、と。 
 人はできるかぎり人を傷つけないように努力するべきだし、俺にはその努力が欠けていたのだ、と。

 階段を昇りきってしまうといつものように目前に鉄扉があった。
 この扉はいつだって簡単に開く。冗談みたいに簡単に。なんでだろう、鍵が掛かっていないのだ。

 たぶん、ここには何もないからだろうな、と俺は思った。
 守るべきものも隠すべきものもここにはない。だから簡単に扉が開くんだ。

 俺はいつものように扉を開けた。やっぱり簡単に開いた。




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