130: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2014/03/21(金) 11:43:40.56 ID:pa8+cNPho
「あみだくじってのは何とも面白い例えだねぇ。
人生ってのも似たようなもので、先の見えない道をあっちこっち曲がりながら進むものだ。
でもあみだくじと違ってね、どこを折れるのか決めることが出来る。人の一生というものは、言わば選択の繰り返しだね。」
頬杖をつき、やや間延びした声で店主は言います。
「今日何するか。明日何するかは当然として、今日の食事をどうするかなんて些細なことだって選択だ。
道を歩いていてもそう。十字路を真っ直ぐに進むのか、左右に折れるのか、将又引き返すのか。僕達は常に選び続けなくちゃあいけない。」
私は黙って聴いておりました。
人生の先輩のお話というものは、身の助けとなることが多いのです。
彼女もきっとそう思ったのでしょう。真剣な面持ちで聴き入っているようでした。
グラスの水で僅かに唇を湿らせてから、彼は言葉を続けます。
「その時その時の選択に後悔を残さないのが一番なのだけど、それはきっと無理だろうね。
だから僕はせめて納得のいく選択をして欲しいって思うよ。どんなに悩んだっていいから必ず自分で決めること。
他人に決めてもらったことなんて、後悔の種になることの方が多い。重要な決断なら尚更だ。
ましてや神頼みなんて行けないよ? 神様が手助け出来るのは十字路進んだ後だからね。」
店主はそう締めくくります。
とても興味深いお話でしたのに、当の本人は少しだけバツの悪そうな表情でありました。
「僕も歳かな。若い子に余計なお小言を漏らすようになるとはね。」
そんなことは、と言いかけた私でしたが、彼の言葉はそれを遮ります。
「いいのいいの。若いうちは人の忠告なんて話半分に聞いとくもんだ。
冒険をして、ちょっと痛い目を見た所でそれも勉強。四十五十となれば嫌でも腰を落ち着かせなくちゃあならなくなる。
若さを大切に。小さい頃の想像とは違っていてね、大人なんて出来ることがどんどん無くなっていくものさ。」
――っといけない。言ってるそばから面白みのない話ばかりだ。ああ、イヤだイヤだ。歳は取りたくないね。
ボヤく主人の横でにゃあと猫ちゃんが一鳴き。
その声色は慰めているというよりも、「いつものことだ」と言っているかのようでありました。
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