過去ログ - 鷹富士茄子「幸運にめぐまれて」
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133: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2014/03/21(金) 11:46:42.80 ID:pa8+cNPho
 


 名前を知らないままで、見知らぬ二人のままで別れた後、私はぶらぶらと駅前を散策しておりました。
折角と密度の濃い一日を過ごしたのですから、このままホテルへと戻るのでは勿体無く思えたのです。
余韻に浸りながらお茶の一杯でも飲もうかしらと、ちょうど良いお店を探し歩く途中、思い返すのは彼女の言葉でした。

「すれ違うだけでも何かしらの縁がある、か。」

少し疲れの見えるサラリーマン風の男性。
友達と笑いながら歩く高校生。
何やら吹っ切れたような表情の少女。
幸せそうに言葉を交わす親子連れ。
私が、真っ直ぐにホテルへと向かうことを選んでいなければ、すれ違うこともなかったのでしょう。
そう思うと、何だか彼らとも糸が繋がっているように思えてくるだから不思議なものです。
こうしてまだ見ぬ誰かを求め歩いているうちに、目的であった喫茶店を通り過ぎたことに漸くと気付き、慌てて引き返すのでした。

 運ばれたアイスティーにミルクを垂らし、スプーンで掻き混ぜる。
始めは二色でも、いずれは混ざり合った色になるのでしょう。
私と彼女の道も、いつかこのカップの中のように交わる日が来るのだろうと思うと、自然と?が緩んでしまいます。
すっかり一色となったアイスティーを口に含み、この二日間で出会った人々を思い返し、私は幸せな気持ちに包まれるのです。

 その方が声を掛けて来たのはそれから暫くの後。
長針が九を指し、じきに六時になろうという頃合いのことでした。

「失礼、相席させて貰ってもよろしいですか?」

若い男性です。
皺のないスーツに身を包み、人当たりの良さそうな笑みを浮かべておりました。
普段ならば流石にお断りをしてしまうのですが、特別がたて続けに起きたこの二日間のことです。
これも何かのご縁、と。
思い切って私は彼を席に迎えることに決めたのでした。

「いや、無理を言って済みません。怪しい者であるつもりはないですから、一応。」

コーヒーを注文すると、「人と待ち合わせをしているんだ」と私の向かい側に腰を下ろします。

「だから少しの間さ、話相手になってもらおうかなって思ってね、君に声を掛けてみたんだ。
 そのお礼って程でもないけど、ここの代金はこっちで持つから好きに頼んでいいよ。」

「いえ、大丈夫です。そろそろ出る所でしたから。」

「それは引き留めちゃって悪かったね。無理を言ったのはこっちだし、帰ってしまっても大丈夫だよ?」

「いいんです。色々なことのあった日ですから、その最後に貴方とお話してみてもいいかなって、そう思ったんです。」

「……何だかプレッシャーだなぁ。じゃあ、なるべく面白いお話を。」

シンデレラって知ってるかい?

男性はそう言いました。


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