135: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2014/03/21(金) 11:48:51.63 ID:pa8+cNPho
「やります。」
「ゆっくり考えてって――え?」
彼は目を白黒とさせて、思わずコーヒーを取り落としそうになりました。
まさか直ぐに答えが返ってくると思ってもいなかったようです。
「一応、理由を聞いてもいいかな?」
コーヒーをテーブルに戻して彼は問いかけます。
「昨日、私は初めてライブというものに行ったんです。」
「昨日? ひょっとしてトライアドプリムスのかい?」
「はい」と私が返しますと、彼は如何にも驚いたといった風情で口を開きます。
「凄い偶然だな。彼女たちはうちの所属アイドルなんだよ。」
「これも巡り合わせなのでしょうね。」
対して私は余り驚きませんでした。
心の何処かで、きっとそんな気がしていたんだと思います。
「それでですね、ステージで歌い踊る彼女たちを見て、とっても楽しくてとっても幸せな気持ちになったのです。
だから私は思ったんです。彼女たちのように、皆を笑顔に幸せにしたいって。」
「うん、そう思ってくれるのは嬉しい。
でもね、アイドルになってステージに立つっていうのはね、とっても大変なことなんだ。
血の滲むような努力を繰り返し繰り返し、来る日も来る日もレッスンに明け暮れて漸くと迎えることの出来る晴れ舞台だ。
君は、それでもアイドルをやるかい?」
幸福は享受するだけではいけないという母の教え。
人生は選択の連続だという恵比寿様。
出会いには意味がある言った彼女。
そして――
黒猫のヘアピンに手を当てて。
それぞれの糸が、今この瞬間一本に繋がったのだと、私は確信しました。
「それでも。私はアイドルになりたいって、心の底から思うのです。」
真剣な顔をしていた彼は、ふっとその表情を緩め。
「いい笑顔だ。君ならきっと問題ないだろう。」
柔らかく微笑み言うのでした。
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