過去ログ - 【モバマス】「幸子、俺はお前のプロデューサーじゃなくなる」
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以下、新鯖からお送りいたします
[saga]
2013/09/04(水) 22:02:21.65 ID:DVgSD76f0
プロデューサーは店内に戻り、今度は両手に袋を抱えて出てきた。
片方を手渡される。
中身はお茶とサンドイッチだ。
プロデューサーが、駐車場の、日陰になった縁石に腰を下ろした。
そのまま、弁当の包みを剥き始めたので、私も近くの縁石に座った。
三十円引きのサンドイッチをもそもそと食べ始める。
暇を持て余したのか、私たちの近くにウサギが行儀よく体操座りをしていた。
会話のない数分間。
「なあ、乃々はどうして……アイドルになろうとしたんだ」
責めるでもない穏やかな口調が、むしろ居心地悪くて、私はうつむいた。
「前に、私……駅前でスカウトされました。断りましたけど……」
「へえ。まあ、不思議じゃないな」
「その話をしてから、お母さんはことあるごとにアイドルのオーディションを受けるように勧めてきました。お母さんは昔にアイドルをしてたことがあって、結婚して辞めちゃいましたけど……私にも同じ道を歩ませたかったんだと思うんです。親戚中に触れ回って……気がつくと、私はアイドルを目指してるみたいになってました。だから、一度だけと決めてオーディションを受けたんです。あっさりと落ちれば、周りの目も覚めるだろうと……最初から無理だと思ってましたけど……それが」
「受かってしまった、と」
世の中には、アイドルになりたくてもなれない子なんて、ごまんといるはずなのに。
アイドルという立場から逃げてばかりの私が、その席のひとつを奪ってしまったなんて。
「それで、特に喜んでくれたのが、ばっちゃ……母方の祖母でした。ばっちゃは、何年か前にじっちゃを亡くしてから塞ぎ込みがちになりました。ばっちゃは、昔から私のことを可愛がってくれて……だから、凄く心配でしたけど……どうしようもなくて。ですけど、私がアイドルになったと知ってから、ばっちゃは少し元気になりました。親戚もみんな嬉しそうで……家族もとてもよくしてくれます」
みんなが背中を押してくれた。
乃々ならできると言ってくれた。
「みんなの期待が……重いです」
周りを見渡せば、私よりも遥かに可愛い子たちがいっぱいで。
歌も、ダンスも、ファッションセンスも、声質も、なにひとつ勝てる気がしない。
「私の代わりなんて、きっといくらでもいます」
自信を持てない痩せっぽっちの心は、今にも砕けてしまいそう。
「乃々の代わりは、乃々だけだ。アイドルとは、良くも悪くもそういうものだ」
「……ですけど」
「誰もが最初から自信を持てるわけじゃない。第一線で活躍してるアイドルだって、常に不安を抱えながらファンの前に立っている。俺が乃々の前に担当していた子も、出会った頃は、おどおどして、いつも周りの視線を気にしていたよ」
「その子は、今、どうなりましたか」
「俺の手を離れて、新しい場所で活躍してる。乃々がアイドルを続けるなら、いずれ会う機会もあるさ。もしかしたら、もう会ってたりしてな」
「その子には、才能があっただけだと、思いますけど……」
プロデューサーは少し気分を害したみたいに身じろぎした。
「そう思うのは勝手だ。だが、才能なんてのは誰にでも埋まってて、それを掘り出すのが早いか、遅いかの問題だと思ってる。そして、幸子が才能を掘り出せたのは、それに見合う努力をしたからだって、傍にいた俺が一番知ってる」
「その子、幸子っていうんですね」
失言に気づいたように、プロデューサーが渋い顔をした。
「ともかくだ、一度、大勢の人たちの前に立ってみるといい。まだ、乃々はアイドルというものを体験していないだろう? 何かを判断するのは、それからでも遅くない」
それでも、無理だと、思いますけど……。
その言葉を呑み込む。
「乃々は、自分じゃなく、家族のためにアイドルになりたかったんだろ? 確かに、私が私がって、がっつくタイプも多いけどな、全員がそうってわけじゃない。俺の持論だけど、アイドルってのは、本質的に、誰かを笑顔にさせる職業だって思ってる。だから、乃々、お前のそれは、アイドルの正道だ。自信を持て」
そう、でしょうか……。
視線を感じ、顔を上げた瞬間、微笑んだプロデューサーと目が合った。
息を呑む。不思議と目を逸らせない。
この息苦しさが、どうしてか、悪いものだと思えない。
私は……頷いた。
「もう少しだけ、アイドル、頑張ってみます」
背後から肩をぽんと叩かれる。
見ると、間近で例のウサギが力強く頷いてくれる。
このウサギ、サービスよすぎですけど……。
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