過去ログ - 【オリジナル】乙女合体ガチユリダー
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184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga sage]
2013/11/06(水) 16:20:07.04 ID:+5iDWnGv0
燕糸神社

 延々と続く障子と板の間を歩きながら、はじめは囁くように返した。

愛糸「死んだ恋人を…甦らせる?」ズキン

 その言葉に、はじめはわずかな鈍い痛みを頭に感じて目を細めた。
 その一瞬の反応を、容呼は見逃さなかった。
 やっぱり、と溜息をついた。

容呼(…もうちょっと、早ぉこの話をするべきやったのかもしれへんな…)

容呼「詩実体を用いた逆算で導き出した『死の間際』の精神、人格…そして完全にコピーした肉体を使って死んだ人間を再生させる計画…そんな禁忌に手を出しとった綾乃に協力しとったのが当時の燕糸家やった」

愛糸「!…っ、ぐぅ」ズギン

 痛む頭を抑えて、はじめは足を止めた。
 容呼は振り返って尋ねる。

容呼「……そろそろ辞めときますかいな?」

 はじめは容呼の顔を見る。後悔と、何よりはじめの身を心配しているとわかるような、そんな弱気な顔をしていた。
 はじめはこの痛みに覚えがあった…記憶を失ったばかりのころ、必死に過去を思い出そうとしたときに脳に走る鈍痛と同じ感覚。
 まるで拒むように……否、自分の脳は、明らかに思い出すことを拒絶していた。

愛糸「…いや、まだ…続けて……」

愛糸「ここでやめたら、前に進めない…何もっ、思い出せない!!」ググッ

 はじめは、地に足をつけて立ち上がった。
 まだ頭は痛むが、以前ほどではなかった…過去を拒む心より、今は思い出したいという気持ちがなにより大事だったからだ。
 今なお過去におびえる情けない自分のためではなく、自分のニュクス因子のせいで迷惑を蒙った(本人たちは決して蒙ったと言わないであろう)3人の為に。
 容呼は安心したように溜息をついて再び歩き話し始めた。

容呼「…当時の燕糸家もまた、世間に隠れた古い魔法使いの家系やった。しかし古い形式に縛られとった彼らは一族として衰退の一途を辿っとってな、そのまま古い魔法にしがみついたまま世間の陰に埋もれるか、それとも魔法を捨てて世俗に安寧を求めるか、そういう内部の争いがしょっちゅうな有様やったそうや」

愛糸「容呼さんは…?」

容呼「そん頃は…まぁ、私もまだおらへんかったさかいなぁ」

愛糸「?」

容呼「まぁそんな燕糸家やったからこそや、綾乃の死んだ恋人…彼は綾乃の師でもあったし、同時に類稀なほどに関係者の間では高名な魔法使いの一族の末裔やったんや」

愛糸「それでコピーを作ってその人を甦らせて、その成果をもって衰退する一族を再興させようとした…?」

容呼「その通り…まぁ、結果は失敗やったけどな」

愛糸「失敗…!?」

容呼「2年近くも休まず研究を続けて出来上がったんは結局『死の間際から分岐した別人』やった…それに、肉体と精神は作り物、それに完成するまでの時間の誤差も、再生した本人と現実世界の間に摩擦を生んでいった。そして、最終的に綾乃は、見るに見かねて再生したコピーをすべて……破棄したんや」

愛糸「……っ」

容呼「そうして心身ともに疲弊しきった綾乃に手を差し伸べたんが『彼女』やった」

愛糸「!!」ズギン

容呼「燕糸の直系として、古い形式に縛られたまま過ごしてきた彼女には…新しい魔法を作ろうと頑張っていた綾乃が眩しかったんやろうな。彼女は綾乃を親友と呼んでひどく懐いとった…」

愛糸「彼女……?」

 青ざめた顔で、それでも知りたいという意思をこめた眼で、はじめは容呼を見上げていた。
 容呼は目を閉じて考える。

容呼(最初はただ似てるだけやと思うとった…いや、思いたかった。確信したくあらへんかったんや)

容呼(知ればそれはきっかけになるんやと心のどこかで思うとった…けど、この子は知りたかったんやな、ずっと……)

容呼(まったく、今更ながら神失格やな…)

 そうして目を開けて、一際大きな襖を前にして容呼は口を開いた。



容呼「ああ、その子が……その子こそが、『燕糸・八重架』やよ」



 すぱぁん と音を立てて、容呼は襖を開けた。


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