942:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/05(土) 11:30:00.48 ID:WBne/CcE0
山川陽介(男子17番)が、こちらをちらりと見上げる。
それに気付かぬふりをして、一歩、また一歩と足を踏み出す。
古川景子(女子13番)は組んだ腕を机の上に置き、黒板をぼうっと見つめているようだ。
そして、その前の文男の席。
机の上に、志保美はぽん、と左手を置いた。
その瞬間、文男はほんの数ミリ、顔を上げた。
しかし志保美は立ち止まらず、すぐにその手はどけた。
だけど、これで良いのだ。これで彼に、自分の意思が伝わっていると信じたい。――否、信じている。
外で待っている、と。
「はい、では名張さんも」
恭子に言われ、志保美は今来た道を振り返る。
文男と目が合う。彼はしっかりとこっちを見ている。
きっと伝わった。私の気持ち。
「私たちは、殺し合いをする。殺らなきゃ…殺られる」
『殺られる』の前で少し間ができてしまった。殺されるなんて、嫌だ。
大丈夫、播磨と一緒なら、私。
「では出発して下さい」
左を向き、出口へと向かう。寺本(兵士)からディパックを受け取り、それを両手で抱え、廊下へ出た。
右側は兵士がいて通れなくなっており、左に進むしかない。
そちら側にも通路の両脇に銃を装備した兵士が数メートルおきにおり、恐怖に思わず足がすくみそうになる。
しかし負けない。数分待てば――6分待てば、また文男に会えるのだ。
兵士たちに沿うようにして進むと、恭子が言っていた通り、右側に階段があった。
駆け下りるようにして、志保美はそこを下っていった。
2階分の階段を降りると、昇降口までの道筋をまた兵士が両脇に立って作りあげていた。
バスの中で拉致されたため、既に白いスニーカーをはいている。
そのまま外に出ると、まっすぐ行くとすぐ門――これは裏門だろう、それがあり、左側は図書館らしき建物と、通路を挟んで手前に武道館がある。
辺りに人の気配はない。皆、すぐにここを離れたのだろうか。
恐る恐る、今降りてきた校舎と武道館の間にある狭い通路を覗き込む。誰もいない。その向こうには渡り廊下、そしてその奥はグラウンドが広がっているのだが、そこにも誰かいる様子はない。
とにかく、どこか目立たないところに早く行かねば。
こんなところでもたついていたら次の中西翼(男子12番)が出てきてしまう。
志保美はその通路でグラウンド方面へ行き、武道館を背にし、渡り廊下に座り込んだ。
ちらりとのぞくと、ちょうど翼が大きな体を現した。彼もどこに行こうか迷ったのだろう、少々まごついた後、裏門方面へと向かっていった。
時間が経つのが遅い。
志保美は腕時計をしていないので(ディパックの中には入っているそうだが)、実際の時間がどうも分からない。
播磨。早く。早く出てきて。
膝をぎゅっと抱え、志保美は祈った。
また首だけ少し出してのぞきこむ。
さっきからほぼ2分後だったようで、服部伊予(女子12番)が翼と同じ方向に走っていくのが見えた。
それを見て、ほっと息をつく。
次に出てくるのが文男なのもあるが、伊予はいわゆるギャルで、ちょっと怖いと思っていたので近寄りたくなかったのだ。
次は文男の番だ。
志保美は立ち上がると、昇降口へと向かった。
「播磨」
兵士が列を成す中、現れた文男に向けて声を発する。
「名張っ…!」
文男はその整った顔を、まるで泣きそうに歪める。
「播磨、こっち。誰もいないから」
志保美は喋りながら、文男の手を握って今までいた武道館の陰に引っ張っていく。
「名張、ありがとう。待っててくれて」
右手には荷物を持っているので、左腕だけで文男は志保美を抱きしめる。
「何言ってんの。当たり前じゃない」
志保美は文男の胸に顔を埋め、微笑んだ。
「ね、播磨さ、あの色、白だよね?」
さり気なく、志保美は体を離す。
「…見えてたんだ?」
「うん、見えた。でね、私も白なの」
すると志保美は、ブレザーのポケットから白いくじを取り出し、文男に見せた。
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