27: ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2013/10/14(月) 20:57:36.44 ID:ZqZKzP3U0
なんと言って招き入れたのか、思い出せない。
気がつくと俺は、彼女にお茶まで出していた。
無言のまま正座をするサクラの顔は暗く、黙りこんでいる。
このまま俺まで黙っている訳にもいかず、仕方なく口を開いた。
「……どうしたの」
意図せず昨日と全く同じ台詞を、サクラに投げ掛けることになった。
彼女もまた、同じ台詞を繰り返した。
「……ごめんなさい」
昨日の記憶と結び付いて再燃しそうな何かを意識の外に置き、俺は次の言葉を待った。
今度は何を言われても謝ってしまおうと、頭の中で予防線を張り巡らせる。
今はサクラと言い争うより、土下座してでも帰って欲しいほど俺は憔悴しきっていた。
「私……聞いてみたんです。先生が言ったことが本当なのか怖くなって……否定してもらえるとばかり思っていたら、結果は正反対でした」
「……何の事?」
「お父さんが……先生のお父さんを自殺に追いやったって……」
予防線は全く意味をなさず、土下座するタイミングを失った俺は、何かに亀裂が入るのを感じた。
あの姿見のような大きなヒビが、映った俺ごと侵食していくような気がした。
収まらない目眩が俺の意識を徐々に遠ざける。
「お父さん、後悔してました……謝りたいって言ってました。全て自分の責任だって……」
サクラの言葉を聞けば聞くほど、崩れるスピードは早くなっていく。
ただ何が崩れていくのかはさっぱり分からなかった。
得たいの知れない現象に、猛烈な危機感と焦燥感だけが募る。
こういう時に限って、日常の些細なことがやけに目についてしまう。
本の並びが正しくない事や、カーテンに積もった埃や、写真の中の笑顔が俺を日常に引き戻してくれるような、きっとこれもまた現実逃避に違いなかった。
聞こえてくる小鳥の鳴き声は、相変わらずいつもの調子で響いている。
部屋はいつもと同じように薄暗く、積み上げられた書類の高さもいつもと変わらなかった。
多分、俺以外は何もかも日常そのものだったのだろう。
「先生は全てを知っていたのに、我慢してきてくれたんですよね。私が落書きなんてしなければ……本当にすみませんでした」
謝罪を耳にしたのを最後に、今までとは比べ物にならない睡魔が俺の意識を奪った。
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