過去ログ - 【エロ注意】俺と先生の脳内なんちゃらが修羅場なわけがない!
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37: ◆/9py4o2CdI[saga]
2013/10/25(金) 08:54:47.85 ID:BP4T1NNh0
 

2:Good-bye sleeping beauty.





 「海外はどう?」

 桜並木の下を歩きながら舞い散る花びらに目を奪われていると不意にそんな言葉が耳を掠め、自然と私の意識は満開の桜から隣を歩く彼の方へと向く。

「ごめん、なんの話だっけ」

「やっぱり聞いてなかったか。そうじゃないかと思ったよ。未織、さっきから桜に夢中みたいだから」

 言って、桜を見上げる敦也。
 私もそんな彼につられて再び見上げれば鮮やかなピンクが目の前に広がっていて、誇らしげに咲き乱れるそれらは空の青を隠していた。

「たしかに綺麗だとは思うけど、毎日通ってるんだろ?」

 敦也の言う通り、この並木道は私の通う大学まで続いていて、だから、毎日のように通ってはいるのだけれど。

「この道って一年の間にいろんな顔を見せてくれるの。その中でも、この時期のこの道が私は一番好き」

 移ろう季節ごとに様々な顔を見せる並木道。
 夏は燃えるような碧。
 秋は憂いを帯びた赤。
 冬は一面を覆う休息の白。
 そして、春。なにもかも生まれ変わり、また生命が息を吹き返す、はじまりの季節。
 この道が鮮やかなピンクを見せてくれるのは、一年という時間の中ではほんの一瞬のことで、それは最も短く、いちばん儚い。
 だから私はきっとこの桜の下を通るたびに、こんな風に少しでも長くこの目に留めておきたいと思うのだろう。

「なるほど。さすがは美大生、平凡な俺らとは見えてる世界が違うってわけか」

「またそうやって茶化すんだから。そういうんじゃないってば。それより、なんの話だったの?」

「今度の週末は久しぶりに時間も合ったことだし旅行にでも行こうって話――だけど、未織はこの桜がよっぽど好きみたいだから今度のデートは桜としたらどうよ?案外想いが通じて咲いてる期間が延びるかもよ」

 意地の悪い笑みを浮かべながら私の額を小突く彼にムッとしつつ、痛むおでこを両手でおさえる。
 そこに。
 ヒラヒラと。
 風に撫でられ降ってきた一枚の花びらが彼の頭に落ちた。その様子を見ていて思わず口許が綻ぶ。
 なんだか怒っているのも馬鹿らしくなって、私は敦也に「屈んで」と頼んだ。

「なんだよ、もしかして仕返し?」

「さあね。なんだろうね??」

 含み笑いを零しながら目線の高さにきた彼の頭に乗っている花びらに手を伸ばし、掴むと。

「はい、正解は?…これでし―――」

 突然。
 柔らかい何かに唇を塞がれ、言葉を紡ぐことができなかった私は視界が捉えている敦也の長い睫毛を見て、ようやくこれがキスなのだと理解した。

「…もう桜はいいよ。ちゃんと俺のこと見て」

 彼のその科白に黙って肯くと、もう一度寄せられる顔に私はそっと目を閉じた。


……………………………。
……………………。
……………。


 ゆっくりと覚醒する意識――――彼の夢を見るのは何年振りだろう。
 寝起きのぼんやりとした頭でそんな事を考えるが上手くいくはずもなく、途中で思考を止める。
 この間まで暑くて寝苦しかったというのに、すっかり肌寒くなった朝。
 そのひんやりとした冷たい空気から逃げるように毛布にくるまり、私は唇に触れる。


 そこには彼と交わしたキスの感触が残っていた。


 


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