265:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/16(土) 07:14:01.93 ID:9R8BLELQ0
プログラム本部である中学校の屋上。
そこに止められているヘリの中の空気は重かった。
「…連絡、取れました?」
結城緋鷹(戦闘実験体18号)は心配げな声を出した。
高谷祐樹(ADGI)は首を横に振る。
先程からADGIの他のメンバーの誰とも連絡が取れない。
田口陽平(ADGI)からの連絡が最後だ。
陽平によると、秋山貴晴(ADGI)と園山シホ(ADGI)は既に他界しており、陽平自身も通信機から聞こえた銃声を最後に連絡が取れないので、おそらくもうこの世にはいないのだろう。
残りの3人も、井上稔(ADGI)の放送が聞こえたのを最後に連絡が取れない。
祐樹はガリッと親指の爪を噛んだ。
イライラした時に出る、祐樹の癖だ。
「…まずいな……」
祐樹の声に緋鷹が振り返る。
ここまで連絡が取れないとなると、何かあったと考えるのが妥当だ。
曽根崎匠(ADGI)・稔・柳瀬伊織(ADGI)はとりあえず作戦は成功させたはずだ、そうでなければあの放送があるはずがない。
このプログラムの担当教官は稔のクラスメイトたちの仇だと聞いている。
比較的好戦的で激昂しがちな稔の性格を考えると、担当教官を殺害した上での成功のはずだ。
ここの最高責任者であろう担当教官がいなくなった後に、何かがあったのだろうか?
陽平からの最後の連絡から既に10分が経とうとしている。
20分でこの校舎が爆発してしまう。
それまでにヘリはここから離れなければいけないし、中にいるメンバーがまだ生きているのなら連れ出さなければならない。
様子を見に行くべきか…?
でも…ここを離れている間に何かあったら…
「…僕、様子見てきましょうか?」
緋鷹が訊いた。
しかし、既に自動拳銃(ベレッタM92F)を右手に持ち、替えのマガジンや銃器などを入れた小さなナップサックを背負って扉の前に立っていた。
祐樹の意思など最初から考慮に入れないつもりである事が見て取れる。
「え…ちょっと緋鷹君!?」
「連絡が取れない以上、見に行くしかないと思いますよ?
大丈夫です、僕それなりに強いと思いますから。
ちゃんと爆発の時間までには戻りますし、何かあったら通信しますし」
祐樹が何を言う間も無く、緋鷹はヘリから飛び出した。
校舎内に入ろうとした時、銃声が響いた。
祐樹と緋鷹は顔を見合わせ、急いで屋上の縁に行き、下を見下ろした。
「周防君…!」
祐樹は目を見開いた。
2度目の銃声で、周防悠哉(男子11番)が倒れるのが見えた。
その前には、スーツ姿の男が4人。
稔の話では担当教官は体育会系の筋肉質な男だ、という事だったが、遠目に見てもとてもそうは見えなかった。
「…誰だ…」
「…お…お父さん…っ!!」
緋鷹がぎりっと歯を喰いしばった。
そして、彼の手元に目を遣り――目を見開いた。
「ちょ…祐樹兄ちゃん、お父さんの手!!
ほら、掴んどる人…っ!!」
祐樹は緋鷹が父と呼んだ人物が含まれるスーツ姿の男たちを順番に見ていき、悠哉に最も近い人物の手元を見――言葉を失った。
そんな……匠…さん…っ!!
衝撃は続けてやってきた。
銃声が響き、悠哉の頭が弾かれた。
祐樹は口を押さえて後ずさった。
激しい吐き気に襲われたが、何とか堪えた。
「お姉ちゃん…
僕、下に行きますから!!
あ、ちゃんと稔兄ちゃんたちは探しますんでっ!!」
緋鷹は校舎の中に消えていった。祐樹はヘリの中に戻り、頭を抱えた。深い溜息を吐く。気が狂いそうだった。陽平たちの死でかなり憔悴しきっているのに、追い討ちをかけるように匠もこの世を去り、残り2人は安否不明、繋がりのあった悠哉も目の前で殺害されてしまった――最悪のケースに近づきつつある。…どうすればいい……大槻さん……助けてください……っ祐樹の目に、うっすらと涙が滲んだ。
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