310: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:41:47.39 ID:cp6WeGbSo
柔和に手を叩くちひろを無視して、さらに詰問する。
「IDカード認証の次に、一番確実だけど最も面倒なDNA認証へ、なんで一足飛びで行ってしまうのか、その理由がこれなんだね……!」
DNAより手頃でかつ充分な精度の生体認証方法は数多く在る。指紋、声紋、静脈、虹彩、網膜……。
311: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:42:26.69 ID:cp6WeGbSo
「――察しが良くて助かります。やはり頭脳が優秀な個体ですね、あなたは」
「……云われてもあまり嬉しくないな……」
うなだれる凛へ、ちひろが更に言葉を投げつける。
312: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:43:44.22 ID:cp6WeGbSo
刹那。
凛の身体は羽交い締めにされた。
「なッ!?」
313: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:45:11.64 ID:cp6WeGbSo
慌ただしく、凛のポートに装着されている携帯端末の拡張端子へ、コンソールから伸びたケーブルが挿される。
「吸い出しはどれくらいかかるんだ?」
「このままいけば……12分です」
314: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:46:11.52 ID:cp6WeGbSo
「厭っ! 放して! はっ、放せッッ!! ちひろさん! これは一体なに!?」
なんなの、この力!? 技術屋なんてひょろひょろしたモヤシばかりじゃないの!?
凛の頭の中に浮かぶエンジニアの姿は、ステレオタイプの像だった。
315: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:50:19.80 ID:cp6WeGbSo
何も答えないちひろに、エンジニアが無情にも告げる。
「よし、吸い出しとバックアップ、完了だ」
その報告の瞬間、彼女は普段通りの声音に戻る。
316: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:52:35.95 ID:cp6WeGbSo
指をぱちんと鳴らした瞬間、凛の目の奥で、この世のものとは思えないほどの激痛が走った。
「ア゛ア゛アアァァアァーーーーーーッッッ!!」
凛は、その地獄のような苦痛に、自分がアイドルであることも忘れ、肺にある空気を全て押し出して絶叫を上げた。
317: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:53:04.74 ID:cp6WeGbSo
脳が、自らを防衛する為の脳内麻薬を生成する猶予すら与えられず、激しい苦しみが身体を支配した。
どんどん失われていくニューロン内の情報。
ワたシノ……そんざイが……コわレテ……いク……
318: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:53:38.13 ID:cp6WeGbSo
pロ……でゅ……cer……たス……kテ……
319: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:55:50.11 ID:cp6WeGbSo
視覚、聴覚、触覚、嗅覚……それら全てが遮断され、もはや自分が叫んでいるのか静かに死を受け容れているのかさえ判る術はない。
身体中の筋肉が無作為に、ビクン、ビクン、と大きく引き攣る。
それは、炭素と水素と酸素と窒素の塊が最後に放つ、断末魔の声無き悲鳴であった。
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