過去ログ - 【艦これ】五十鈴の調子が悪いようです【SS】
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(SSL)
2013/11/11(月) 21:32:15.32 ID:foU1KJOC0
あえて冷房を切られた室内にはじっとりと湿り気を帯びた空気が充満しており、ただ座っているだけでも汗ばみそうな程であった。熱帯性気候であるトラック諸島の夜は、日本の夏と同様に暑いのである。
そんな中でも、赤城は汗ひとつかかず杯の酒を口に運んでいた。
例の茶屋、二階座席である。
赤城は文月を救ったあの時と同じように、髪を三つ編みにまとめ、伊達眼鏡をかけた平服姿となっている。
机の上には肴として鰹のたたきが並べられ、半分ほどはすでに赤城が食してしまっていた。トラック諸島が位置するこの海域は太平洋諸島地域で最も多く鰹が生息しており、日本人が持ち込んだローストビーフにも似た調理法も今ではすっかり定着している。
部屋の中には他に誰もおらず、貸し切りとなった店内には老夫婦が酒の支度をしているのみであった。
――文月の姿は、茶屋のどこにも見当たらない。
十数分ほどの間、1人でゆっくりと酒を楽しんでいるように見えた赤城であるが、わずかにその目がすぼめられ、
「高遠陽一、さんですね」
ささやくように障子へ呟くと、同時にそれが開かれた。
現れたのは、まさに高遠陽一である。
高遠は初め、この席に座っているのが妙齢の女性であることに面喰らったようであったが、それでも職務で培った度胸故か、赤城の向かい側にどかりと座り込み、憔悴した様子など一片も見せない。
「……で?」
そのまま自分の側に用意された酒を盃に流し込み、ぐいと煽ってから高遠は口を開いた。
「いくらだ……?」
「いくらだ、とは……?」
「とぼけるな……!」
押し殺してはいるものの、その声にはかすかな怒気が含まれている。
「身代金が目当てなのだろう? 誘拐犯めが……!」
「さて、あの手紙にはそんなこと、ひと言も書いていませんでしたが……」
浴びせられた怒気に眉ひとつ動かさず、赤城も自分の盃を煽る。
赤城が自分の妖精に命じ、密かに高遠へ送った手紙に書かれていた内容とは、以下の通りである。
――娘は預かっている。返して欲しくば、町外れの○○という茶屋へ今夜尋ねて来い。
極めてシンプルなこの手紙に誘われて、高遠はこの場所を訪れたのである。
そしてなるほど、件の手紙には娘を誘拐したなどとは一切書かれていない。ただ、預かっていると書かれたのみだ。
――何故ならば、
「誘拐犯、とは、あなたとお友達のことでしょう……?」
「……な!?」
「図星のようですね」
にやりと笑う赤城に、高遠ははっとした様子を隠せずにいた。
「いえ、実際に友人だったのかどうかは知りませんでしたが、ピアイルック家の当主が過去に日本へ留学していたこと、あなたと当主が同年代であることを考えると、そうであってもおかしくはない、と」
「仮にそうだったとして――」
「あなたはピアイルック家の当主マウさんと結託し、文月ちゃんの誘拐を画策した」
口を挟む隙は与えない。
もはやこの場は、赤城による高遠陽一の断罪場へと変貌しているのである。
そして赤城は、
「……他ならぬ、文月ちゃんを守るために」
――そう断じたのである。
それを口にする赤城の瞳は、断罪者のそれではない。
目の前にいる一人の父親に心から同情し、哀れに思っている人間のそれであった。
「――文月、などという名ではない」
高遠は、呻くように声を絞り出す。
「私が娘に与えた名は――」
「文月、です」
あえて赤城は、その名を告げさせなかった。
「あなたの娘さんは、睦月型駆逐艦7番艦の戦力と魂を受け継いだ……艦娘、文月です」
「ああ……!」
どうしょうもなく漏れてくる嗚咽と涙を、高遠は留めることができなかった。
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