過去ログ - タイムスリップの夏
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17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:40:13.53 ID:J66bdH/E0
一理ある。不覚にもそう感じてしまった中川は慌てて、
「だから、このままじゃ終わらせないって何度も言ってるだろ。ほっといてくれよ」
 そうなのだ。おれにはおれのやり方があるのだ。だが、赤子のように駄々をこねる中川に苛立たしさを感じたのか、[禁則事項です]の声にトゲが生える。
「駄目だ。今を逃したらおまえは絶対にこのまま終わる。わかったらとっとと屋上に行って来いよ。坂上もおれらが上手く呼んどくからさ」



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:41:57.30 ID:J66bdH/E0
我らは恋のキューピッド、と言わんばかりに三人は示し合わせたかのように動き始めた。まず三十二秒が中川の後ろに素早く回り込み両脇に腕を入れて力一杯落ち上げる。わずかに体の浮いた中川の足元をすかさず三十秒ががっちりと掴み、担架で人を運ぶようなフォーメーションが完成した。


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:43:23.11 ID:J66bdH/E0
「それではお一人様。屋上まで」
「あいあいさー」
 がんばってなー。悪そうな笑顔で手を振る[禁則事項です]が、運ばれていく中川の視界の奥へと消えて行った。



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:44:35.25 ID:J66bdH/E0
それからまだ十分と経っていない。昼休みにしては妙に静かな屋上で、中川は体を強張らせていた。思えば中川は[禁則事項です]たちにハメられたのだ。三十秒と三十二秒の妙に統率のとれたチームワークと屋上の鍵を開ける手際の良さを目の当たりにして、中川はようやく理解した。


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:46:35.03 ID:J66bdH/E0
 だが、心のどこかでほっとしている自分がいることにすでに中川は気づいていた。思えばこれまでの十七年間、恋愛経験など当然なく、青春らしい青春を謳歌できなかったくそったれの人生だった。しかしそんなクソまみれの日常に、ようやく春が訪れるのかもしれないのだ。


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:47:38.13 ID:J66bdH/E0
当然の如く、期待は胸を高鳴らせていた。それどころか、告白して付き合ってデートしてその後にそういう関係になった時のことを想像して、中川は股間を隆起させてしまっていた。思春期真っ盛りの男子の想像力というのは、まったくとどまることを知らない。体中からあふれ出る、イカ臭いリビドー。


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:48:47.80 ID:J66bdH/E0
おれは阿呆だ。中川はしばし自己嫌悪に陥った。屋上で一人、何を舞い上がっているのだ。「静まれ」ささやくように、中川は自分に言い聞かせた。
 生暖かい風が、屋上を洗うように吹き抜ける。もうすぐここにあの坂上瑠璃子がやって来る。



24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:49:48.77 ID:J66bdH/E0
話したことなど、ほとんど無かった。でも、可愛かった。とびきりに可愛くて、長い髪はつやつやで、目の前を通り過ぎるとわずかにいい匂いが香って、その度に硬くなった。
 でも、勝算はあった。それは確率にしてしまえば何万何千分の一であったが、数字など今の中川には関係なかった。



25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:50:34.98 ID:J66bdH/E0
 ごくり。唾を飲んで、中川は己が炎を静かに燃やした。台詞は、何でもいい。ベタに「好きです、付き合って下さい」でもいいし、変化球で「今から君のために愛を唄うよ」でもいい。……。冷静に考えて、それはないなと思い至る。


26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:51:04.48 ID:J66bdH/E0
がんばってなー」
 [禁則事項です]、おれがんばるよ。男になるよ。そう思っていた時だった、
 がちゃり。
 屋上のドアが開いた。心臓は爆発しそうな勢いで運動を始める。鼓動が耳にまで伝わる。顔は熱く、目玉が零れ落ちそうなぐらいの目力でそのドアの先を僥倖した。



27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:52:18.11 ID:J66bdH/E0
ゆっくりとドアを開けて入ってきた。
 
 大人だった。
 
 坂上じゃなかった。
以下略



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