過去ログ - タイムスリップの夏
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:05:33.33 ID:J66bdH/E0
 夏の残滓がまだ色の濃い屋上で、水を打ったように静まり返る屋上で、中川は静かに心臓の鼓動を加速させていた。
「やめときゃよかった」
 中川は口の中でそう後悔した。最初にやろうと言い出したのは[禁則事項です]だった。今にして思えば実に下らないゲームである。



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:10:45.14 ID:J66bdH/E0
「小便のキレが一番悪かった奴は罰ゲームな」
 アホだった。だが他にやることもなかった。とにかく暇だったのだ。中川をはじめ連れたってトイレに赴いた四人の男子高校生は、この実に下らないゲームに嬉々として賛同した。
 こうして、四人はちょうど四つの小便器に横一列にきれいに整列して、ほぼ同じ手つきで制服ズボンのチャックを下ろし、[禁則事項です]の掛け声と共に放尿を開始した。



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:13:10.50 ID:J66bdH/E0
一番最初に水洗ボタンに手を掛けたのは[禁則事項です]だった。所要時間たったの十秒。世界記録にも手が届こうという好タイムである。それというのも、[禁則事項です]はこの勝負を見越して先にトイレを済ませてきていたのだが、当然他の三人はそれを知る由もなかった。


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:14:02.53 ID:J66bdH/E0
それから二着、三着とテンポよく水を流した。記録は実に三十秒と三十二秒弱。その平均的記録に、二人の男子高校生はなぜか少し不満を感じながらも罰ゲーム回避にそっと胸を撫で下ろした。
 そして、一分と十二秒。五十メートル走を二桁のタイムで走る[ピザ]を見るような目つきで、三人は中川を僥倖した。中川のキレは今シーズン最低の不調だった。上司との飲み会で酔っ払った新人社員が最寄駅のトイレでするそれよりも、キレは鈍かった。



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:17:48.86 ID:J66bdH/E0
「おせーよ」
 狭いトイレに声が響く。[禁則事項です]だった。
「でも、これでお前罰ゲーム決定な」
 謎の悔しさと敗北感が体中に渦巻くなかで、中川はむんずとズボンのチャックを上げる。
「何すりゃいいんだよ」
以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:19:48.42 ID:J66bdH/E0
は? 一瞬時が止まった。中川はうろたえた。
 だがそれも無理はない話なのだ。それというのも、[禁則事項です]はよく中川や他の友人を誘ってはこの手の「罰アリ、反則アリ、何でもアリアリのルール無用」のしょうもない賭け事を仕掛けることが多いのだが、これまでにおいての大抵の罰ゲームは、やれジュースを人数分買ってこいだのやれ禿げた担任に「それはヅラですか?」と聞いてこいだの、思春期の男子特有の可愛げのあるものばかりだったのである。



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:22:05.64 ID:J66bdH/E0
それがどういう風の吹き回しか。急に「好きな女の子に告白してこい」である。普段の罰ゲームとのギャップに、中川が半ば思考停止に陥るのも理解できよう。
「待てよ。いきなりヘビーすぎんだろ」
 ようやく中川が異議を申し立てた。しかし、[禁則事項です]率いる三人の裁判官はすぐさま却下した。
「駄目だ。もう決定したことだからな。中川、今から告ってこいよ。そんで、砕けて来いよ」
 振られる前提で物言う[禁則事項です]に少し腹立たしさを覚えながら、それでも中川は反撃する。
以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:23:24.58 ID:J66bdH/E0
「いやいやいやいや。いくらなんでもそれは」
「ゴタゴタいうなよ。ほら、行った行った」
 三人に無理やりトイレの外まで引きずられ、勢いよく背中を押されながら、
「場所は、――そうだな、屋上がいい。鍵は開けといてやるから、そこに坂上連れて来い」



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/11/12(火) 18:25:30.85 ID:J66bdH/E0
本気かよ? とまだ冗談半分で話を聞く中川の顔を真っ直ぐに見据えて、[禁則事項です]は冷ややかに笑い、
「もしやらなかったら、その時はわかってるよな」
 わからなかった。不思議と(ゲームの内容自体が軽いものだったからだろうが)これまで罰ゲームをサボったヤツなど一人もいなかったのだから。だから、罰ゲームを受けなかった人間を中川は知らなかった。



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:26:59.22 ID:J66bdH/E0
[禁則事項です]の右隣で偉そうに腕を組んでいたもう一人の友人(記録三十秒)が中川に言って聞かせるように嫌みったらしく、
「この前さあ、いたんだよね。罰ゲームすっぽかしたやつ。ほら、二組の山本知ってるだろ? あいつが先週ゲームに負けて、罰を受けるはずだったのにおれは知らねえとか言って帰りやがったんだ」
 そこで一拍置いて、再び勿体付けるような口調で、
「そんでそれから三日間、山本は学校休んだ。何があったのか、俺の口からはとてもじゃないけど言えねえな」



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2013/11/12(火) 18:28:08.62 ID:J66bdH/E0
ごくり。中川は無意識に喉を鳴らした。[禁則事項です]の左隣で天然パーマの髪の毛を弄っていたもう一人の友人(記録三十二秒)が、口を開く。
「あれは、おそろしい出来事じゃった」
 山籠もり歴三十年の仙人のような口調で、ぽつりと言い放つ。中川の背中を得体のしれない汗が走った。



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