過去ログ - 葉隠「10割占い」霧切「後日談よ」
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938:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/29(金) 08:53:55.39 ID:jdPmmt0K0
「…真子っ、雨宮ぁっ!!
絶対、逃がすもんか、今度こそ…ッ!!」
“今度こそ”というのは、季莉たちが城ヶ崎麗(男子十番)らの班を逃がしたことを指しているのだと思うが、麗たちを逃がした腹いせに殺されるだなんて絶対にごめんだ。
「うあ…ッ!!」
真子は悲鳴を上げた。
前に出そうとした右足が左足に引っ掛かったのだ。
前のめりに倒れそうになるが、咄嗟に悠希が後ろから抱き支えたために地面への激突は免れた。
支えられたことにほっとして真子はお礼を言おうと振り返り――目を見開いた。
悠希の後ろ、季莉が鎌を振り上げていた。
真子を見ていた悠希の口が、小さく動いた。
「逃げて」、と。
悠希の手が真子から離れ、支えを失った真子は前のめりに倒れた。
両手を突き出したので顔面が地面に激突するということにはならなかったが、掌に砂利がめり込む感触が伝わり、真子は顔をしかめた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
背後から聞こえた、水の音。
家のシャワーとは違うけれど勢い良く液体が噴き出す音、水滴が地面にぼとぼとと落ちる音。
真子はばっと振り返り――絶叫した。
悠希のすらりとした長い足、ベージュのニットベストに包まれた決して逞しくはないけれど頼もしい背中、さらさらと風に靡くダークブラウンの髪――先程までと変わらない後姿なのだけれど、その向こうには、紅い噴水が迸っていた。
悠希の身体がぐらりと揺らぎ、真子の方へと倒れてきた。
咄嗟に手を伸ばしてその身体を受けると、悠希の首(丁度、あの忌まわしい首輪の少し上だ)から噴き出す鮮血のシャワーが、真子の愛らしい童顔を汚した。
「あ…あぁ…」
綺麗な髪も、部活動で少し日に焼けた端正な作りの顔も、耳に光る青いピアスも、1番上のボタンだけを外したカッターシャツも、少しだけ緩めた赤いネクタイも、ベージュのベストも、全てが真っ赤に染まっていた。
プログラム中に眉毛をいじる程に容姿を気にしている悠希には我慢ならない汚れ方をしているが、悠希はもう何も言わなかった。
悠希はうっすらと目を開けていたのだけれども、その目には、何も映っていなかった。
「雨宮くん…雨宮くんッ!!
いやああああああぁぁぁっぁぁあっ!!!」
何度も助けてくれて、何度足を引っ張っても護り続けてくれた悠希が、死んだ。
『山本さんのことは護るからね』と言ったその言葉を最期の最後まで貫いて。
『逃げて』と言われたけれど、動けるはずがなかった。
魂が抜け落ちたとしても、普段関わりがほとんどなかったはずの自分のことを正真正銘命懸けで護ってくれた悠希を捨て置くだなんて、できなかった。
真子は自分の顔や服が紅く汚れるのも気に留めず、悠希に縋って泣いた。
これまでに感じたことのない程の悲しみと罪悪感が、真子を襲っていた。
その様子を、龍輝は目の当たりにしていた。
季莉の鎌が振り下ろされる刹那、悠希は真子を手離して振り返り、季莉の攻撃を受け止めようと手を伸ばしたがそれは叶わず、鎌の刃が悠希の首に突き刺さった。
鮮血を撒き散らし、悠希は倒れた。
親友の死を目の当たりにしたのは、田中顕昌(男子十一番)に続いて2人目だ。
「悠希…ッ!!」
今まで悠希が「俺ってイケメンだよね」というような趣旨の発言をする度にからかったり茶化したりしてきたが、今は土下座して謝りたい。
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