過去ログ - 葉隠「10割占い」霧切「後日談よ」
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941:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/29(金) 08:56:25.17 ID:jdPmmt0K0
「ねえ、あたし、死にたくないわ」

2番目に出発する班として教室を追い出されて廊下を歩いている時に、鷹城雪美(女子九番)はプログラムに参加させられ今から戦場へと出なければならないという状況とは思えない程に落ち着いた声で、そう言った。

もちろんそれはその後ろを歩いていた松栄錬(男子九番)も同意見だった。
容姿は地味だし場を明るくできるような性格でもないし、運動はからっきし駄目だし、だからといって勉強ができるかと言われるとどんなに頑張っても中の上程度にしかできないし――たまに生きていて申し訳ない気分にさえなってしまう錬だが、だからといって死にたいと思ったことは一度もないし、今ももちろん死にたくない。
地道に努力を続ければ行く行くは祖父が現在会長を務めている鉄鋼会社に就職して、将来的にはそれなりに上の地位に就くだろう。
こんな地味な自分だが、湯浅季莉(女子二十番)という少々性格はキツいが可愛らしい彼女もいる(季莉の祖父が大東亜を代表する自動車会社の社長を務めており、祖父たちが会社の将来を見越して錬と季莉を許嫁としたのだが、今は決められた関係だからという理由ではなく、少なくとも錬は心から季莉のことが好きで付き合っているし、季莉もそうであると信じている)。
人生の成功は、ほぼ約束されているのだ。
それを、こんなわけのわからない戦闘実験とやらに巻き込まれておじゃんにされるだなんて、到底受け入れられるはずがない。
季莉と同じ班になることができたのは良かった、一緒に生きることができるので。

季莉や、友人の榊原賢吾(男子七番)ももちろん死にたいと願っているはずがなく、全員が雪美の意見に同調した。
すると、雪美は柔らかい笑顔を浮かべ、言った。

「賢吾、季莉ちゃん、松栄くん…みんな、生きたいのよね。
 それなら、生きる覚悟を、あたしに見せてちょうだい?」

「生きる…覚悟?」

季莉が首を傾げながら訊き返し、錬と顔を見合わせた。
生きる覚悟を見せるというのはどういうことなのか、わからなかった。
錬は賢吾に目で問うてみたが、賢吾もそれはどう見せるべきものなのだろうかと言いたげな目で錬を見返した。

校舎を出て、とりあえず最後の班が出発した後に禁止エリアになるというエリアを抜け出すために歩いていたところ、突然雪美が立ち止った。
「雪ちゃん?」と声を掛けた季莉の口を手で塞ぎ、雪美は茂みの少し離れた所を指差した。

「…あそこ、城ヶ崎くんたちがいるわね」

錬たちは息を呑み、雪美の指先を目で追った。
姿を確認することはできないが、僅かに声が聞こえる。
現時点で教室を出発しているのは錬たちと城ヶ崎麗(男子十番)・木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)以外にはいないので、声からそれが誰か判断できなくとも、そこにいる人物を特定することはできた。

「城ヶ崎たち、戦うとかそういうの…やらないよね。
 やらないって、そう言ってたもんね。
 紗羅とかもみじとも、話しておきたいなぁ…」

季莉は安堵した表情を浮かべ、そう呟いた。
季莉はその派手な身なりや荒れていた時期があったことからか、ギャルグループとしてクラスの中では少し浮いた存在だった。
しかし、季莉は打ち解けることができれば相手に非常に懐くために交友関係は広く、特に紗羅とは相性が良いようで、仲良く話をしている姿はよく目にしていた。
紗羅の幼馴染であるというもみじとは性格自体はあまり合わないようだったが(気の短い季莉には、マイペースなもみじののんびりさは合わないのだろう)、嫌っているわけではないので話をしたいと思うのは当然だろう。

「賢吾は、城ヶ崎君のこと、あまり好きじゃなかったよね」

錬が賢吾を見上げると、賢吾は茂みからは目を離さないまま、ふんと鼻を鳴らした。

「確かに、城ヶ崎のあの派手さは気に喰わない。
 自重とか謙虚とか、そういう言葉があいつの辞書にはないんだろうな。
 だが、あいつの、自分の発言に責任を持ち人を裏切らないところは嫌いではない。
 政府の言いなりにならないと言った以上、戦うことはないだろう。
 木戸も真っ直ぐなやつだからな、大丈夫だろう」

へぇ、と錬は声を洩らした。
普段から賢吾は麗が脚光を浴びたり騒いだりする度に嫌な顔をしていたので心底嫌いなのかと思っていたが、そうではないようだ。
賢吾は非常に真っ直ぐな人間なので、麗の芯がぶれない部分はしっかりと評価しているのだろうし、健太も典型的な熱血体育会系の人間なのできっとじっくり話せば気が合うのだと思う。

錬はいつも派手で目立っている麗に苦手意識を持っているけれど、それは近くによると眩しいからだとか自分が霞んでしまいそうだからだとか、そういう卑屈になってしまう理由から来るものであって、麗自体は頼りになる人だと思っている。
健太も熱すぎるところが苦手だが、体育で足を引っ張っても「ドンマイ、錬、次頑張ろうぜ!」と肩を叩いてくれて、例えばそれがサッカーであれば良いアシストをして何とか錬が点を取れるようにパスを回してくれるような、そんな気遣いをしてくれるとても良い人だということを知っている。


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