過去ログ - オール安価でまどか☆マギカ 7
1- 20
965:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/17(木) 06:07:43.40 ID:W6RpX5zN0
この国には、不思議な法律がある。
全国の中学3年生のクラスから、毎年抽選で50組を選び、その生徒たちを最後の1人になるまで互いに戦わせる単純明快なゲーム、通称「プログラム」。
ここは極東の全体主義国家、大東亜共和国。かつては準鎖国体制を取っていたこの国も、今の国際化の流れでだいぶ規制は緩和されたものの、それでも唯一残る徴兵制度とでも言わんばかりに、この殺人ゲームだけは、なぜか時代の片隅に取り残されていたんだ。

西暦2013年、国際化が進み海外市場も拡大したにも関わらず、相変わらずこの国は不景気だ。米帝をはじめとする各国の不況の煽りを受けて、一向に回復の兆しがみられない経済、やはり国際化は間違いだったのではないかとテレビの前で熱弁するアナウンサー。
それでも軍事国家だから、権力というものは絶対だ。言論統制は一応撤廃されたことにはなっているが、それでもまだ粛清というものは陰ながら存在していたし、警察だって政府の犬である事実は変わらない。少し前までは反政府組織も活躍していたという噂があったが、結局は柔和政策によってなにもかもがうやむやな状態のままだ。
しかし、なかば強引とも取れる政策は悪いことばかりではない。少しの犠牲のもとに、たくさんの人々が満足した生活を与えられている。人々の幸せはある程度の制限を除けば十分に保障されている。こんな状況で今から多数の犠牲を伴う改革を実行するという思想を持つこと自体、まさしく世間から嫌われている反社会的思考そのものなのではないかと、道徳の時間で先生から教わった。なるほど、そうなのかもしれない。

 少しの犠牲のもとに、たくさんの人々は幸せになれる。
 たしかに、それは素敵な理想論かもしれなかった。

   *  *  *

 波崎蓮(千葉県水沢市立河田中学校3年A組16番)は、地元の小さな公園のベンチに座っていた。今の時間は朝の7時30分、目の前の道を、足取りの重そうなスーツ姿の男や、新卒の社会人一年生だろうか、まだリクルートスーツ姿の女性が、ぱらぱらと駅へ続く道を歩いている。
自分たちの中学校はここからすぐのところにある。1時間目が始まるのは朝の9時だ。本来ならまだ学校へ行くには早い時間帯だったし、可能なら素敵な二度寝の空間へ逃げ込んでもまだ許される。だが、今日は朝早く出発しなければならない理由があった。

「あ、蓮くん。なにしてんのさ、そんなとこで」

駅へ進む人々と逆行するように歩いていた、制服を着た女の子が、自分の存在に気が付いて近寄ってきた。軽く手をあげて苦笑いをする。まだ4月、朝のこの時間は、少し肌寒い。

「おはよ、麻衣子」
「うん、おはよー。蓮くん、今日もコンビニパン? 体によくないよー?」

平坂麻衣子(17番)、小学校の頃からの知り合いだ。昔から自分は声優になりたいとか言っていて、その関係で声を使うのがメインの放送部に入っている。実は自分も、半ば強引に麻衣子に放送部に連れ込まれたクチだ。といっても、喋るのは麻衣子、自分はあくまで音楽を流したりする専門だったけれども。

「うっせ。仕方ないだろ、うちは父親がアレな状態だし、母親は呑気に朝ごはんを作っている場合じゃないっての。それに、最近のコンビニパンって、なかなか悪くないぜ?」
「ごはんなら放送室で食べればいいじゃない、わざわざこんな寒いとこで食べなくたっていいの。ほら、行くよ、ほらほら」
「お、おいっ」

そして、今朝も半ば強引に麻衣子に左腕を掴まれて、一緒に学校へと向かう。顔は可愛い方なのに、この強引な性格がちょっと惜しい。あとその勝気なムフフ顔もちょっと惜しい。


 春休みの事だった。
4月から異動になる部下の壮行会があるから今夜は遅くなると言い残した父が、近所の路地裏で倒れているのが見つかったって、警察から連絡が来た。電話を受けた自分はよくわからないまま、とりあえず先に寝ていた母を起こした。夜中に救急搬送された父親をむかえに、タクシーで隣町の大病院へと向かう。手術中のランプが点灯する部屋の前に置かれた長椅子に座るシチュエーションなんて、ドラマの中のフィクションだけだと思っていたのにだ。
結局、手術は朝までかかったらしい。いつのまにか長椅子で寝ていたらしい自分の体に、毛布が掛けられていた。隣に座っていた母の姿はなく、どうやらいったん父の私物を取りに自宅へ戻ったらしいと、近くにいた看護師が教えてくれた。

父は病院の個室に入院することになった。意識はまだ戻らない。今はいろんなチューブが体に繋がっていて、あぁ、こういうのを植物人間って言うのかなって、ぼんやりと思った。
朝陽もすっかり昇りきった頃に戻ってきた母と一緒に、警察の担当者から話を聞いた。父は酒に酔った状態で地元駅まで戻ってきたあと、なんらかの原因で路地裏に行き、そこで足がもつれたのか転倒して、後頭部を酷く打ってしまったらしい。ただ、腹部に三発程殴られた跡があること、第一通報者が父を発見する直前に、路地裏から複数人の若者が走り出してきたのを目撃していることから、もしかすると事件性も疑われるかもしれないと、それだけ告げた。
確かに、駅から自宅までは路地裏なんて通らない。帰りに一人でもう一杯やるような人間でもない。謎は多かったが、肝心の父の意識が戻らないままだから、どうしようもない。担当者は念のため当時の状況を聴きこみだけすることと、父の意識が戻ったら改めて事情を伺いに来ることだけを告げると、席を外した。


「蓮くんのパパ、もう半月くらいだっけ? 入院してから」
「いや、来週でもう一ヶ月になるよ。相変わらず意識はない、点滴でなんとか生きてる感じ」

 母はあれから、可能な限りは父の傍にいる。自分も週に2回は顔を出す。会社の人も、何度か顔は見た。余程信頼されていた上司なのだろう、時々豪華なフルーツ盛りや花束がベッドの脇に増えていたりした。保険料もたんまりと入ってきて、今のところ生活水準に支障はない。だが、日に日に母の頬がこけていくのは、仕方ないのかもしれなかった。
そんな母の様子を傍らで見ているからこそ、自分は冷静になれたのかもしれない。一人っ子の自分がしっかりしないと、自分が母を支えてあげないと。そう思えたのかもしれない。
あいにく料理は得意ではなかったし、朝ごはんも寝不足の母に作らせるわけにはいかないから、少し早く学校に出て、行きのコンビニでパンとコーヒーを買う。それが3年生になってからの毎朝の日課だった。
2年生から3年生へのクラス替えはなかったから、いつもの見知った顔だ。既に高校受験モードに突入している奴もいれば、まだまだ部活動に専念している奴もいる。もっとも、自分は放送部だったから持ち回り制で毎朝の校内放送担当だ。自分たちA組には放送部員が3人いる。自分と、麻衣子。そして。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/450.09 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice