過去ログ - 千早「オシロイバナ」
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16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/12/02(月) 23:33:30.40 ID:7uDsyhBso
「本当よ。確かめてみる?」

耳元で声が囁く。呼吸が肌をくすぐる。心臓が早い。

「確かめてって……」

そういえば私とあずささんはソファに寝転んだまま抱き合っていて、今さらながら肌がしっとりと蒸れるほどに密着していることを意識する。シャンプーとリンスとソープと、そしてあずささん自身の香りが一番近くにあって、大きいあずささんの胸が私との間に挟まれてその均整を崩して広がっている。自分の鼓動が煩い。

「い、いま、ですか?」

声が震える。緊張している。期待している。唾を嚥下することも、まばたきすることも意識して行わないと忘れそうになる。

「さぁ」

指が頬に触れる。顎を撫でる。唇をなぞる。

「どうかしら?」

潤み細められた瞳は熱を帯び、ほんのりと赤くなった肌が艶かしく、意地悪に笑う口端から赤い舌が覗く。右手の指は私の脈を計るように手首に巻きついていて、左手の指が背骨に沿って移動していく。押し倒したときに乱れた髪が妖艶な色を見せながら額にかかり、ソファの黒の上に伸びている。

残酷だ。この状況で私に選択をさせようとしている。そして、何を選んでも受け入れるつもりでいる。

この人はこんなに小悪魔な仕草をするひとだったろうか。小悪魔な表情が怖いくらいに似合う人だったろうか。

「あずささん……」

唇を寄せていく。あずささんが目を瞑る。

私は、こんなに呑まれやすい人間だったろうか。あずささんは本当はヴァンパイアで、魅了でも使ったんじゃないかと疑いたくなる。いま、私の目に映るあずささんは一等甘そうだ。

私も目を閉じる。今度は過ちじゃない。優しくて、深いキスを奉げたい。

合図まで5、4、3、

「はいさーい、みんな! 今日も頑張って……うわぁぁぁぁぁあ!」

「きゃぁぁぁぁぁ!」

説明をしよう。我那覇さんが事務所にやってきた。ソファで抱き合い、触れるか触れないかまで唇を近づけている私達を見つけて叫んだ。それにつられて私も叫んだ。あずささんは特に驚いていない。

「ちっ、千早たちっ、事務所でなにしようとしてるんだ!」

「ち、違うの我那覇さん! これは別にやましいことじゃなくて!」

嘘だ。さっきまでの私は至って不健全だった。

「ホントか!? なら、なんで二人はあんなに近づいてたんだよ!」

「そ、それは……! ほ、ほら、あずささんも誤解だってこと言ってください!」

うまく言い逃れが出来なくてあずささんに助けを求める。

「響ちゃん」

「な、なにさ、あずさ」

ひとつため息をして、私を強く抱きしめたあずささんがにこりと笑って答える。

「ちょっとお邪魔だから、少しだけ外で待っていてくれないかしら」

凍った。凍てつかされたと言うべきか。私と我那覇さんの時も思考も一瞬だけ完全に動けなくなった。

「うぎゃー! や、ややや、やっぱり不純じゃないかぁー!!」

「あ、あずささんっ!!」

顔が羞恥で熱い。

忘れていた。この人はたまにでなく、みんなの肝を抜くようなことを言う人だった。

「あら〜、私なにかおかしなこと言ったかしら〜」

なのに、本人ばかりが一人平然としているのだ。

あぁでも、そんなところも好きです、あずささん。

好きです。大好きです。愛しています。

これかもずっと。




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